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作品名:時空のはざまより 作者:光石七

第7回   ある新人研修【テーマ:新人】
 講師が壇上で滔々と語っている。参加者たちは皆真剣な面持ちで聞いている。中には熱心にメモを取っている者もいる。
「相手の目を見て話しましょう。目を逸らしてはいけません。落ち着いた、誠実な印象を与えることが重要です。睨んでもいけません。ガンを飛ばしてしまっては、反抗的だと受け取られます。どんなに腹立たしくても、ぐっとこらえましょう」
 講師の言葉に参加者たちは頷いた。講師は正面を向き、参加者たちを見回した。
「では、よく使う言葉を練習してみましょう。私の後について言ってみてください」
 参加者たちも姿勢を正す。講師が口を開いた。
「違います」
「違います」
 参加者たちが一斉に講師の真似をする。講師は黒板にその言葉を書いた。
「どこを強く言うかによって、与える印象が変わってきます。最初のほうにアクセントを置くと断定的な感じ、全体的に平坦な口調だと落ち着いた感じ、語尾を強めると反発しているような感じ、というように。状況によって使い分けましょう。――では次です。『知りません』」
「知りません」
 再び講師が黒板に書く。
「これもアクセントを使いこなせるようになりましょう。――『私ではありません』」
「私ではありません」
 これも講師は黒板に書いた。
「どれも基本的には落ち着いた印象になるよう、淡々と言う場合が多いかと思います。でも、状況によっては強気で言わなくてはならないケースも出てきますし、様々なことを想定してどんなアクセントでも言えるようにしておくのがベストでしょう。――今度はペアになって練習しましょう。気付いたことがあれば、互いに教えてあげてください」
 参加者たちは隣同士でペアを組み、練習を始めた。講師はしばし席を外す。後ろで見ていた男が近づいてきた。主催者だ。
「先生、お忙しいところありがとうございます。先生のおかげで、釈放される割合が高くなりました」
 主催者が礼を述べる。
「これから犯罪をやろうとするなら、警察の取り調べに対する心構えも覚えておかなくては。曖昧な証拠につられて自白しては向こうの思うつぼです」
 講師がきっぱりと言った。主催者は感嘆する。講師が練習している参加者たちを見た。
「今回の参加者はなかなかいいですね。応用も教えても大丈夫でしょう。それが終わったら休憩を入れて、次の時間は黙秘権の正しい使い方を講義します」
「よろしくお願いします」
 講師が壇上に戻った。主催者は再び研修の様子を見守ることにした。




※2013年4月に執筆。


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