やっくんに一通の手紙が届きました。やっくんはあまり手紙をもらったことがないので、とても喜びました。ところが、封を開けてみると、便箋にはこんなことが書いてありました。
『これは、不幸の手紙です。 この手紙を三人に送らないと、私に災いが訪れるそうですので、申し訳ありませんがあなたに送らせていただきました。 三日以内に、同じ文面で三人に同様の手紙をお送り下さい。 そうしなければ、あなたには、想像を絶する不幸が訪れることになります。 昭和六十一年三月に、この手紙を止めた茨城県の小崎ルミさんが、原因不明の死を遂げました。 他にも同様の不幸は、多々生じています。 私はあなたに、彼女と同じような不幸を体験してほしくありません。 ですから、ぜひとも、この手紙を止めないでいただきたいとおもいます。 最後になりますが、あなたに不幸が訪れないことを、心より、お祈り申し上げます』
差出人はわかりません。昔流行った不幸の手紙です。でも、やっくんはあまり気にしませんでした。なぜなら、やっくんは疫病神だからです。人間を不幸にしてこそ疫病神。不幸が商売道具ですから、不幸になると脅されても何ともありませんでした。一応神様ですから、死ぬこともありません。やっくんは手紙を無視することにしました。 そろそろ働こうと、やっくんは不幸にする人間を探し始めました。若い会社員の男をみつけ、彼をターゲットに決めました。まず、挨拶代わりに道でつまずかせてけがを負わせました。 「……いってぇ」 男は顔をしかめます。膝から血が出ています。すると、近くにいた若い女性が彼に近づきました。 「大丈夫ですか? これで血を拭いてください」 きれいなハンカチを差し出します。 「ありがとうございます」 ハンカチを受け取ろうとした彼の動きが一瞬止まりました。 (タイプ……!) 顔が真っ赤になります。 「大丈夫ですか? 立てますか?」 女性は心配そうです。 「い、いえ。かすり傷ですから」 男はカッコつけて立ち上がりました。その日、彼は一日上機嫌でした。 やっくんは次に財布を落とさせました。気付いた男はおろおろしています。 「銀行で下ろしたばかりだったのに……」 なんとかみつけ出そうと家中を探し回ります。その様子が滑稽で、やっくんは笑いました。ところが、引き出しを漁っていた男は、宝くじをみつけたのです。 「すっかりわすれてたなあ……。もう当選番号は発表されたんだっけ」 新聞をひっくり返して調べ出しました。 「え……? 前後賞!?」 男は喜んで換金に出かけました。 すべてがこんな調子なのです 「なんか最近、俺ツイてるかも」 男はにこにこしています。やっくんは不幸にしようとしているのに、何故かそれは男に福をもたらすのです。やっくんは別な人間に憑くことにしました。 ところが、それでも結果は同じでした。やっくんが不幸にしようと働きかければ、それがラッキーなことにつながるのです。やっくんはようやくあの不幸の手紙のせいだということに気付きました。疫病神にとっての最大の不幸は、不幸にしようとした人間が幸福になること。三人に手紙を出そうにも、もう三日はとっくに過ぎています。 「疫病神が不幸になるなんて……」 やっくんは頭を抱えてしまいました。
※2013年4月に執筆。
|
|