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作品名:時空のはざまより 作者:光石七

第47回   告白シンドローム【テーマ:告白】
「あのさ、お前MEGUの写真集が無いって騒いでたじゃん?」
「ああ、先月ね。結局みつからなかったけど」
「実はさ、あれ俺が売っちゃったんだ」
「は?」
「小遣い欲しくてさ。サイン入りだし高値が付くかなって」 
「……兄貴、マジ?」
「悪い。秘密にしとくつもりだったんだけど、なんでか言っちまった」


「私ね、本当は美憂のこと嫌いなの」
「羽奈?」
「アンタがお金持ちのお嬢さんじゃなければ付き合ってないって」
「羽奈、私のこと親友だって……」
「思ってるわけないじゃん。トロいし、見ててイライラするんだよね」
「そんな……」
「もう、すぐ泣く。そういうとこも嫌いだわ。じゃあね」


「お前に大事な話がある」
「何、父さんも母さんも改まって」
「実はな……お前は俺たちの息子じゃないんだ」
「え……?」
「俺たちとお前は血が繋がっていない。ある施設から赤ん坊のお前を引き取ったんだ」
「でも、私たちはあなたを本当の息子だと思ってる。それは今までもこれからも変わらないわ」
「あ、うん……」
「混乱させたか。戸籍も操作してあるし、一生黙っているつもりだった。だが、やはりお前に真実を伝えるべきだと母さんと意見が一致したんだ」


「こちら会場です。まもなく記者会見が始まります。急遽決まったこの会見、榎畑議員は何を語るのでしょうか? ……あ、榎畑議員が姿を見せました」
「皆様、お集まり頂きありがとうございます。民和党の榎畑量次です。本日私がお伝えしたいこと、それは私の罪です。――私は昨年五月、Q産業より五千万円の賄賂を受け取りました。公共事業受注の便宜を図る約束でした。皆様の信頼を裏切る行為をしてしまい、誠に申し訳ありません」
「これは寝耳に水です。なんとあの榎畑議員が自ら過ちを告白しました」
「――ずっと隠し通すつもりでしたが、政治家として人間としてやはり真摯であるべきだと思い、本日この場を設けさせていただきました。警察にも自首致します」



 会議室に集められた有識者たちは頭を悩ませていた。
「告白シンドロームか……」
「ある日突然胸に納めていたことを話し出すのが症状だ。日本中に広がりつつある。だが、一点から徐々に周りに派生した感じではない。場所は飛び飛びだ。そして患者――これが適切な言葉かはわからないが、秘密を告白する人たちには接点も共通点もみつからない」
「自白剤を打たれたわけじゃないだろ? 病原菌やウィルスでもない。面白い話や言葉、ファッションとかならテレビやネットで全国的に広まることはあるが、自分に不利な情報をぶっちゃける行為はなあ……」
 原因不明、当然対策も立てられない。皆ため息を吐くばかりだ。
「でも、犯罪の検挙件数も立件数も増えてるだろ? 犯人が自白するからな。いいことじゃないか」
 一人が呟くように言う。
「そこだけ見ればな。だが、秘密を吐露することがマイナスになることもある。産業スパイがいい例だ。企業秘密が他社に渡ることは大きなダメージになる。極秘情報を扱う仕事もあるしな。それに、我が国はあからさまに言わないことで人間関係を円滑にしている部分が大きい。ここが崩れると国の根幹を揺るがしかねない」
「建前はそうだろ。要はお偉方がいろいろ困るから早急になんとかしろってことだ」
「ま、結局はな」
 またため息になる。
「原因がわからないのにどうしろと……」
「とりあえず、患者たちにもう一度詳しく話を聞くか」
 有識者たちは頷き合った。


 とある家で眠り続ける若い女性。人工呼吸器が装着され、点滴や心電図などの医療器具も繋げられている。
「愛美、もう少しだ」
 白髪交じりの父親がベッドの傍らに座り娘に話しかける。
「お前が望んだ嘘偽りの無い社会、お父さんが作ってやるからな」
 娘の反応は無い。父は娘の髪を撫でた
「お前がいつ目を覚ましても良いように……」
 彼は憎んでいた。娘を騙した男を。娘に偽りの愛を囁き、金と純潔を奪って逃げた男。純粋で疑うことを知らなかった娘は深く傷付き、自ら命を断とうとした……。
『この世に欺瞞なんていらない。真実だけでいいのに』
 娘の遺書にあった言葉を父は胸に刻んだ。
(あいつだけじゃない。世界自体が愛美を裏切った)
 その後、父はある動画をネットに投稿した。猫を数分撮影したものだが、『嘘はやめよ、真実を話せ』というフレーズを密かに幾度も紛れ込ませていた。サブリミナルだ。この動画はテレビでも紹介され、アクセス数が一気に伸びた。父はCM制作会社に金を渡し、テレビCMにもサブリミナルを取り入れさせた。
(効果が現れる時期は人それぞれ。……あの男もこの方法で殺してもよかったか)
 男の最期の姿を思い出し、父は静かに微笑む。そして娘の頬にそっと触れた。




※2014年8月に執筆。


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