ロンは、わたしの家でかっている犬です。ロンはとてもおりこうです。「おすわり」というとちゃんとすわるし、「お手」も「まて」もできます。知らない人にはほえるけど、小さい子どもにはほえません。わたしはまい日ロンとあそんでます。ロンはわたしのともだちです。 でも、さいきんロンがあまりうごかなくなりました。立ち上がるときもヨロヨロします。わたしはおかあさんにどうしてとききました。 「ロンは人げんでいうと九十さいのおじいちゃんなの。ナルちゃんとあそびたいんだけど、からだがいうことをきかないの」 わたしはびっくりしました。ロンがおじいちゃんだなんておもったことはありませんでした。わたしはロンのあたまをなでました。ロンは目をとじてなんだか気もちよさそうでした。 そのうち、ロンはじぶんで立つことができなくなりました。おしっこもうんちも下にシートをしいています。わたしもシートのとりかえを手つだいます。くさいけれども、ロンが一生けんめい生きようとしているから、わたしもおかあさんも、おとうさんももんくはいいません。大せつな家ぞくだから、ロンをささえるのはあたりまえです。みんなでロンのからだをマッサージしたりします。 ところが、とうとうロンはしんでしまいました。ロンがうごかなくて、からだがつめたくなって、わたしはたくさんなきました。おかあさんもないてました。 「おはかをつくってあげよう」 おとうさんがいいました。みんなでにわのはしっこにあなをほって、ロンをうめました。木のいたに「ロンのおはか」とかいて、土の上に立てました。 わたしはまい日がつまらなくなりました。学こうにいったり、ともだちとあそんだりしているあいだは気もちがまぎれるけれど、すぐにロンのことをおもいだしてかなしくなってしまいます。 ある日、学こうからかえると、おかあさんがわたしに白いふうとうを見せていいました。 「ナルちゃんに手がみがきてるよ」 ふうとうには「ナルちゃんへ」とかいてあるけれど、さし出し人はかいてありません。わたしはおもいきってふうとうをあけました。白いびんせんが入っていました。
『大すきなナルちゃんへ
いつもいっしょにあそんでくれてありがとう。 ぼくはとてもたのしかったよ。 ボールもフリスビーも大すきだった。 ナルちゃんからあたまをなでてもらうの、とっても気もちよかった。 ぼくがうごけなくなっても、一生けんめいおせわをしてくれたね。 からだをマッサージしてもらうと、なんだかいたいのがどこかにきえていくみたいだった。 ほんとうはもっとナルちゃんとあそびたかった。 ナルちゃんといっしょにすごしたかった。 でも、ぼくのおとうさんとおかあさんが天ごくからよんでるから、いかないといけないんだ。 ぼくがいなくなってさびしくてかなしいかもしれないけれど、いつまでもなかないで。 ぼくはナルちゃんのえがおが大すきなんだ。 ナルちゃんがわらってくれないと、ぼくもかなしいよ。 おとうさんとおかあさんとなかよくね。 いままでほんとうにありがとう。 天ごくにいってもナルちゃんのことはわすれないよ。 ナルちゃんもぼくのことわすれないでね。 ずっとともだちだよ。大すき。
ロンより』
なんと、ロンからの手がみでした。わたしはなみだがでてきました。おかあさんが 「ナルちゃん、だれからだった?」 とわたしにききました。 「ロンから。ロンが手がみくれた」 おかあさんはにっこりわらって、わたしの手をにぎりました。 「ロンはナルちゃんが大すきだったもんね。きっと、ナルちゃんのことをしんぱいしてるのよ。ないてないかなあって」 「おかあさん、ロンの気もちわかるの?」 わたしはすこしおどろきました。 「おかあさんもロンとなかよしだったでしょ? ロンがしんじゃっておかあさんもかなしいけど、ないてたらロンがあんしんして天ごくでくらせないもの。ナルちゃんもロンのためにわらってあげよう? そのほうがロンもうれしいよ」 「でも、ロンのことわすれたくない」 わたしはおかあさんにいいました。おかあさんはうなづいていいました。 「わすれなくていいの。ううん、ずっとおぼえていてあげよう? うれしかったこと、たのしかったこと、ぜんぶロンにもおしえてあげようよ。みんなげん気だよって、つたえてあげようよ」 わたしはなくのをやめることにしました。ロンのおはかに手をあわせて、えがおをつくりました。 わたしはロンからの手がみをつくえのひきだしにしまいました。 ロン、大すきだよ。ぜったいわすれない。ずっとともだちだからね。
※2013年4月に執筆。
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