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作品名:時空のはざまより 作者:光石七

第4回   ロン、ありがとう【テーマ:手紙】
 ロンは、わたしの家でかっている犬です。ロンはとてもおりこうです。「おすわり」というとちゃんとすわるし、「お手」も「まて」もできます。知らない人にはほえるけど、小さい子どもにはほえません。わたしはまい日ロンとあそんでます。ロンはわたしのともだちです。
 でも、さいきんロンがあまりうごかなくなりました。立ち上がるときもヨロヨロします。わたしはおかあさんにどうしてとききました。
「ロンは人げんでいうと九十さいのおじいちゃんなの。ナルちゃんとあそびたいんだけど、からだがいうことをきかないの」
 わたしはびっくりしました。ロンがおじいちゃんだなんておもったことはありませんでした。わたしはロンのあたまをなでました。ロンは目をとじてなんだか気もちよさそうでした。
 そのうち、ロンはじぶんで立つことができなくなりました。おしっこもうんちも下にシートをしいています。わたしもシートのとりかえを手つだいます。くさいけれども、ロンが一生けんめい生きようとしているから、わたしもおかあさんも、おとうさんももんくはいいません。大せつな家ぞくだから、ロンをささえるのはあたりまえです。みんなでロンのからだをマッサージしたりします。
 ところが、とうとうロンはしんでしまいました。ロンがうごかなくて、からだがつめたくなって、わたしはたくさんなきました。おかあさんもないてました。
「おはかをつくってあげよう」
 おとうさんがいいました。みんなでにわのはしっこにあなをほって、ロンをうめました。木のいたに「ロンのおはか」とかいて、土の上に立てました。
 わたしはまい日がつまらなくなりました。学こうにいったり、ともだちとあそんだりしているあいだは気もちがまぎれるけれど、すぐにロンのことをおもいだしてかなしくなってしまいます。
 ある日、学こうからかえると、おかあさんがわたしに白いふうとうを見せていいました。
「ナルちゃんに手がみがきてるよ」
 ふうとうには「ナルちゃんへ」とかいてあるけれど、さし出し人はかいてありません。わたしはおもいきってふうとうをあけました。白いびんせんが入っていました。

『大すきなナルちゃんへ

 いつもいっしょにあそんでくれてありがとう。
 ぼくはとてもたのしかったよ。
 ボールもフリスビーも大すきだった。
 ナルちゃんからあたまをなでてもらうの、とっても気もちよかった。
 ぼくがうごけなくなっても、一生けんめいおせわをしてくれたね。
 からだをマッサージしてもらうと、なんだかいたいのがどこかにきえていくみたいだった。
 ほんとうはもっとナルちゃんとあそびたかった。
 ナルちゃんといっしょにすごしたかった。
 でも、ぼくのおとうさんとおかあさんが天ごくからよんでるから、いかないといけないんだ。
 ぼくがいなくなってさびしくてかなしいかもしれないけれど、いつまでもなかないで。
 ぼくはナルちゃんのえがおが大すきなんだ。
 ナルちゃんがわらってくれないと、ぼくもかなしいよ。
 おとうさんとおかあさんとなかよくね。
 いままでほんとうにありがとう。
 天ごくにいってもナルちゃんのことはわすれないよ。
 ナルちゃんもぼくのことわすれないでね。
 ずっとともだちだよ。大すき。

 ロンより』

 なんと、ロンからの手がみでした。わたしはなみだがでてきました。おかあさんが
「ナルちゃん、だれからだった?」
とわたしにききました。
「ロンから。ロンが手がみくれた」
 おかあさんはにっこりわらって、わたしの手をにぎりました。
「ロンはナルちゃんが大すきだったもんね。きっと、ナルちゃんのことをしんぱいしてるのよ。ないてないかなあって」
「おかあさん、ロンの気もちわかるの?」
 わたしはすこしおどろきました。
「おかあさんもロンとなかよしだったでしょ? ロンがしんじゃっておかあさんもかなしいけど、ないてたらロンがあんしんして天ごくでくらせないもの。ナルちゃんもロンのためにわらってあげよう? そのほうがロンもうれしいよ」
「でも、ロンのことわすれたくない」
 わたしはおかあさんにいいました。おかあさんはうなづいていいました。
「わすれなくていいの。ううん、ずっとおぼえていてあげよう? うれしかったこと、たのしかったこと、ぜんぶロンにもおしえてあげようよ。みんなげん気だよって、つたえてあげようよ」
 わたしはなくのをやめることにしました。ロンのおはかに手をあわせて、えがおをつくりました。
 わたしはロンからの手がみをつくえのひきだしにしまいました。
 ロン、大すきだよ。ぜったいわすれない。ずっとともだちだからね。




※2013年4月に執筆。


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