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作品名:時空のはざまより 作者:光石七

第30回   銀河の果てで昭和ノスタルジー【テーマ:昭和】
 マコが僕の方を向いて目を瞑った。部屋には二人きり、ソファに並んで座ってる。これは……だよな? バラのような唇が僕を誘う。僕は両手をマコの肩に置いた。少しずつ顔を近づける――。

  ♪毎日毎日 僕らは鉄板の

 ……ムードを壊すなよ。マコはじっとしている。よし、無視して続行だ。

  ♪上で焼かれて 嫌になっちゃうよ
   ある朝 僕は 店のおじさんと

 ……ジジイ、やめろ。

  ♪けんかして 海に…… バターン!

「じいちゃん、大丈夫?」
 慌てて廊下に出た。マコも心配してついてきた。
「おお、ちょっとつまずいただけじゃ」
 じいちゃんがゆっくり起き上がる。怪我はなさそうだ。
「もう、年なんだし気を付けてよ」
「ちと歌に熱が入り過ぎたかの」
「あの変な歌に?」
「変な歌とは何じゃ。昭和で一番売れたレコードじゃぞ。モトには奥深さがわからんか」
「滅んだ星の古い歌なんて興味ない」
 じいちゃんはかつて地球にあった日本という国の、昭和という時代が大好きだ。僕には理解できない。
「あの、『およげ! タイヤキくん』ですよね?」
 マコが口を挟んだ。
「おや、知っとるのか?」
「伯父の家で聴いたことがあります」
「ほお、ワシみたいな昭和コレクターかの?」
「いいえ。――おじいさん、昭和コレクターなんですか?」
「そうじゃ。特に高度経済成長期は面白いのう」
「どんな物を集めてるんですか?」
 マコの言葉にじいちゃんの目が輝いた。

「これはインベーダーゲームといっての。ゲームセンターの他に、喫茶店やスナックにも置かれてたんじゃ」
 ……家デートがじいちゃんのコレクション自慢に。何気にマコも楽しそうなのが癪に障る。
「こっちは『ひょっこりひょうたん島』のソフビ人形じゃ。全キャラクター揃ってないのが残念じゃが」
 ……ただの小汚い人形だろ。
「あ、ドン・ガバチョ!」
 マコが歓声を上げた。
「よく知っとるの」
「地球史の先生が日本びいきで。……あの、あれもコレクションですか?」
「そう、全共闘で実際に使われたゲバ棒とヘルメットじゃ」
「機動隊と衝突した時の?」
「おお、詳しいの」
「先生が写真を見せてくれました」
「よど号事件とかあさま山荘事件とかも知っとるかの?」
「はい。大きな事件は一応」
 ……なんか盛り上がってない? 
「じゃあ、これが何かわかるかの?」
 じいちゃん、調子に乗って金庫まで開けた。取り出したのは透明なケースに入った一枚の紙幣。
「五百円札……?」
 マコは首をかしげる。
「ただの五百円札ではないぞ。昭和最大の未解決事件として名高い……」
「三億円事件!?」
 マコの素っ頓狂な声にじいちゃんは満足げだ。話の通じる人間、あまりいないからな。
「その通り。盗まれた紙幣の一枚じゃ」
「どうしてここに……」
「ワシも人づてに手に入れたし、詳しい経緯は知らん。じゃが、公表された番号と見事に一致しておる。ワシのコレクションの中でも別格じゃ。事件の謎の一端を自分が握っているなんて最高じゃよ」
 じいちゃん、天狗になってる。ちょっと釘刺しとこう。
「こんな紙幣、簡単に偽造できるじゃん。怪しげな奴に騙されて高い金払っちゃって」
「いいや、これは本物じゃ!」
 ま、何度言ってもじいちゃんは聞かないけど。
「すごいですね。今は無い星の事件の手がかりがこんなところにあるなんて」
 ……マコ、本気で言ってないよな?
「ロマンじゃろう? もう一つ、とっておきがあるんじゃ」
 じいちゃんが奥の部屋にマコを案内する。……あれを見せる気だな。随一の眉唾物。
「結構大きいですね」
 布に隠れたそれにマコは興味深げだ。
「ワシの一番のお宝じゃ。誰にでも見せるわけではないぞ」
 もったいぶりながらじいちゃんが布を外す。
「……日本人の……剥製?」
「誰だと思う? ヒントはこのキツネ目じゃ」
 楽しそうなじいちゃん。
「キツネ目の男……グリコ森永事件?」
 控えめにマコが答えた。
「大正解! レア中のレアじゃろ?」
 満面の笑みを浮かべ、じいちゃんは胸を張った。

 部屋に戻ってマコに謝った。
「じいちゃんの趣味に付き合わせてゴメン」
「ううん、楽しかったよ」
「変な物ばかりだろ? 言っとくけど、五百円札も剥製も偽物だから。じいちゃんが本物って言い張ってるだけで」
「わかってる。本物は伯父さんの家にあるし」
「そうか。……え?」
 伯父さんは昭和コレクターじゃないんじゃ……。
「五代前の先祖が地球調査員だったから。サンプルを採取するのに、いたずら心でちょっと事件に手を出したって日記にもある」
「へえ……」
 いたずらって……。
「本人は当時の日本を結構気に入ってたけど、将来の自然と科学のバランスを危ぶんでた。……この星は地球と同じ過ちを犯しちゃダメよね」
 愛星心溢れるマコらしい。僕はマコを抱きしめた。




※2014年1月に執筆。


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