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作品名:時空のはざまより 作者:光石七

第28回   根古野町の空の下【テーマ:猫とアオゾラ】
 小さな穏やかな町、根古野町。この町の平和を守るため、人知れず戦う者たちがいる――。

 高く草が生い茂る空き地でのデッドヒート。
「ブラック、そっちだ!」
「OK、肉球フラッシュ!」
「チュ、チュチュウゥ……」
「ホワイト、とどめを!」
「いくぜ! デス・ニャン・ファング!」
 ――人間の目には二匹の猫がネズミを捕まえているとしか映らないだろう。ネズミに黒猫が飛びかかって前足で押さえつけ、白猫が犬歯で首根っこを噛んだ。そう思うはずだ。だが、ここには重大な事実が隠れている。ネズミは悪の秘密結社『ダークラッツ』の一員であり、二匹の猫は正義の戦士『肉球戦隊ぬこレンジャー』なのだ!
「チュ……この恨み……我が同志……が……」
 ネズミは捨て台詞を残して息絶えた。亡骸が霧となって消える。二匹が頷き合った。
「カッコいい! 白玉さん、墨丸さん、さすがです!」
 僕は思わず叫んでしまった。
「その名前で呼ぶんじゃねえ、クソガキ!」
 怒鳴る白玉さ……いや、ぬこホワイト。
「またついてきたのか、茶太郎」
 呆れたように言うぬこブラック。
「お願いです、今日こそぬこレンジャーに入れてください!」
「ダメだ、遊びじゃねえぞ」
「子供はご主人様にでも遊んでもらうように」
 二匹ともつれない。
「だって、ダークラッツって何百匹もいるんでしょ? 二匹だけじゃ……」
「俺たちがそんなに軟だと?」
 ……白玉さんの睨みは半端ない。
「ホワイト、顔が怖すぎ。茶太郎、俺たちは二匹で大丈夫だ。ご主人も心配してるだろうし、もう帰ったらいい」
 墨丸さんは紳士的に諭してくる。
「……墨丸さんも飼い猫のくせに」
「うちは放任主義だからいいんだよ」
 二匹が帰り始める。慌てて僕も後を追った。

 今日も玉砕か。どうしたら仲間にしてくれるだろう? 白玉さんも墨丸さんも僕を子供扱いするけど、毎日おもちゃで戦う訓練をしてるし、イメージトレーニングも欠かさない。必殺技だって考えたのに……。
「茶太郎、お帰り」
 家の前で迎えてくれたのはまひるちゃん。僕の飼い主で、彼氏いない歴二十ウン年。……ん? まひるちゃん、その頭は?
「可愛いでしょ? ニッキーマウスだよ」
 ニッキ……?
「ネズミの遊園地なんかってずっと避けてたけど、すごく楽しかった。この耳もいいよね」
 ――大変だ、まひるちゃんがネズミに!? まさか、ダークラッツの仕業?
「ちゃ、茶太郎、ちょっと……」
 僕は必死にまひるちゃんの頭からネズミ耳を外そうとした。

「――てめえの勘違いだ、ガキ」
 塀の上から白……ホワイトが冷やかに言う。
「あれはセズニーランドってところの商品だな。二十ウン年も行ったことがなかったとは、茶太郎のご主人も稀有な人間だ」
 墨丸さんはまひるちゃんを褒めてるんだろうか……?
「すげー必死だったな。ガキが一丁前の動きしやがって」
「ご主人に傷まで付けてね」
 二匹は僕がまひるちゃんに飛びかかるところを見てたそうだ。
「……ダークラッツの陰謀じゃないかって、体が勝手に……」
「んなわけねえだろ。これだから世間知らずのガキは……」
 ホワイトがやれやれとため息を吐いた。
「だって、まひるちゃんがダークラッツの餌食になったら……」
「ご主人が大事なんだね」
 墨丸さんがクスリと笑った。
「ホワイト、いいんじゃない?」
「ああ、合格だ」
「……へ?」
 白玉さんは何を言ってるんだ?
「ぬこレンジャーに入れてやる」
「え……ええっ! ホントに!?」
「本当だよ。これからよろしく」
 墨丸さんの笑顔に実感が湧いてくる。
「だけど、どうして?」
「ぬこレンジャーは憧れだけじゃ務まらない。大切なものを守りたいという強い思いが必要だ。守るために戦うんだから。茶太郎はご主人を守ろうと必死だったろう? その思いがあれば大丈夫」
 墨丸さん……。涙が出そうになる。
「てめえは茶トラだから、“ぬこブラウン”な」
 白玉さん……。必殺技は“ニャンチ・クラッシュ”でお願いします。
「じゃ、一緒に戦おう!」
「頼むぜ、ブラウン」
 僕、ぬこレンジャーになれたんだ。ダークラッツと戦うんだ。
「あの、ダークラッツって何が目的なんですか? し……ホワイトとブラックは何を守りたいんですか?」
 僕は二匹に聞いた。
「奴らの目的は、数を増やしてこの町を『寝隅町』に改名することだ。俺は根古野町の名前を守るために戦ってる。ネズミに名前を渡せねえだろ」
「だから、ぬこレンジャーが定期的に打撃を与えてるんだ」
 ……あれ?
「定期的って……撲滅しないんですか?」
「俺たちも縄張りの見回りだの昼寝だので忙しいし、気が向いた時で十分だから」
「俺なんか縄張り広すぎて、時間かかってかなわねえ」
 ……この二匹、真面目にぬこレンジャーやる気あるの?
「いい天気だな。こんな日はのんびり寝てえ」
「同感」
 二匹が伸びをした。……僕、ついていっていいんでしょうか? 青空に問いかけたくなった。




※2013年12月に執筆。


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