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作品名:時空のはざまより 作者:光石七

第14回   彼女が無口な理由【テーマ:無口】
 高校生活がスタートして二ヶ月が過ぎた。初めのうちは同じ中学出身者同士で固まっていたけれど、今はもう新しい仲良しグループができている。休み時間にダベったり、お弁当を一緒に食べたり、買い物に付き合ったり、私もそれなりに楽しんでいる。
 クラスの中にどのグループにも属さない女子がいた。琴田さんだ。かわいい顔をしているのに、大人しくてあまりしゃべらない。話しかけても簡単な返事を返すだけ。授業で同じ班になっても自分から話すことはないし、会話は必要最低限。休み時間も一人で過ごしている。同じ中学から来た生徒がいないようだけど、誰とも親しくなろうとしないのはひどく浮いている。ミステリアスな雰囲気にときめいてる男子もいるみたいだけど。
「なんかお高く留まってる感じだよねー。『私はみんなとは違うのよ』って言いたいわけ?」
「目立ちたいだけじゃない? 男子の気を引くために孤独な美少女を演じてるとか」
「それって自分のルックスに自信アリってこと? 性格悪ッ」
 みんな琴田さんのことを好き勝手に噂している。女子がそんな風に見るのは仕方ないけど、私はちょっとかわいそうだという気持ちもある。一人ってすごく辛いのだ。昔いじめられて仲間外れにされたことがあるから、私はその苦しさがわかる。好き好んで一人ぼっちでいる人はいない。琴田さんが一人でいるのは何か理由があるんじゃないだろうか。
 さらにひと月が過ぎ、バスケ部の二年生が琴田さんに告ったという噂が広まった。でも、琴田さんは交際を断ったらしい。結構イケメンで人気のある先輩だったので、多くの女子が琴田さんを非難した。「何様のつもり?」というわけだ。OKしたらしたで、絶対悪く言うと思うけど。それを機に、琴田さんへのいじめが始まった。
 教科書を隠したり、体操着を破ったり、「キモい」とか「死ね」などの言葉の暴力、ネットの掲示板やSNSを使って琴田さんが援交や万引きをしてると吹聴したり、かなり陰湿だ。同じクラスの五人の女子が特に中心になっていじめている。私は関わらないしやり過ぎだと思うけれど、琴田さんに味方する勇気もない。いじめの矛先が自分に向かうのが怖い。でも、琴田さんは何をされても言い返すことも先生にチクることもしない。悲鳴を上げたり相手を睨んだりすることはあっても、何故か言葉を飲み込んでいる。
 いじめはエスカレートしていく。プールに突き落として上がってこられないようにしたり、無理矢理裸にして写真を撮ったり、ほとんど犯罪だ。今日は体育倉庫の裏でリンチされているのを見かけた。相手はいつもの五人。琴田さんは顔が腫れて口も切れ、制服もボロボロになってあちこち血が出ている。私はハラハラしながらも動けず、物陰からこっそり見ていた。
「ここまでされても何も言わないなんて、アンタ口無いの?」
 リーダー格の立原さんが笑う。
「だんまりが余計ムカつくのよね。泣き言くらい言えば?」
 日堂さんが琴田さんの髪の毛を引っ張った。
「……じゃあ、言おうかな。心を……入れ替えるつもり……ないみたいだし」
 琴田さんが途切れ途切れに言った。
「あはは、珍しー。琴田が二言以上しゃべるのって初めてじゃね?」
「しゃべってもムカつくのは変わんないけどね」
 いじめっ子たちがはやし立てる中で、琴田さんははっきり言った。
「あなたたち全員、今日体がバラバラになって死ぬ」
「……はあ?」
 一瞬全員がキョトンとしたけど、すぐにリンチが再開した。
「ふざけたこと言ってんじゃねーよ!」
「死ぬのはアンタのほうだって」
 私は見ているのが辛くなって、その場を離れた。
 翌日、ホームルームで先生が信じられないことを言った。
「昨日の夕方、立原と日堂、伊地川、鶴海、押田の五人が事故に遭った。トレーラーに轢かれて、五人とも亡くなったそうだ」
 琴田さんをいじめてた五人だ。遺体は腕や足がちぎれてひどい状態だったらしい。私は昨日の琴田さんの言葉を思い出した。彼女の言った通りになったのだ。偶然とは思えず、背筋が寒くなった。
 中心の生徒がいなくなったことで、琴田さんへのいじめは下火になった。彼女の態度は以前と変わらず、自分から話すことはない。
「知ってる? 琴田さんの家って神社なんだって」
 昼休みにこんな話を友達から聞いた。
「なんか言葉の神様を祀ってるんだってさ。その割に琴田さんってしゃべんないよね。ご利益あるのか、ビミョー」
 みんな笑ってたけれど、私は笑えなかった。琴田さんのフルネームは琴田茉菜。……言霊? 言葉には魂が宿る、力があるって意味だ。琴田さんの言葉に本当に力があるとしたら……? だから不用意なことを言わないよう、普段から人を避けて無口なんじゃないだろうか。あの五人は琴田さんが許せる範囲を超えてしまったから……。
 私は琴田さんを敵に回すのだけはやめようと心に決めた。




※2013年7月に執筆。


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