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作品名:時空のはざまより 作者:光石七

第13回   最後の暴君【テーマ:無慈悲な人】
 国王が急な病で床に就いた。二十歳を過ぎたばかりの王太子が留学先から密かに呼び戻される。国王の病状は深刻で、もはや治る見込みがなかったのだ。
「畏れながら、まもなくあなた様は一国の王となられるでしょう。どうかお心づもりを……」
 側近が王太子に告げる。王太子は頷き、国の現状を尋ねた。
 まもなく国王が崩御した。新国王の誕生だ。国民は新しい国王を歓迎した。外国で見聞を広め、旧態を打破する若さと力がみなぎる王。きっと今よりも暮らしやすい国になるに違いない。誰もがそんな期待を抱いた。
 しかし、新国王が最初に指示したのは増税だった。ただでさえ不景気で民衆の生活は苦しい。そこへ多額の税金を取られては飢える者たちが増える。
「王様は進んだ世界を見て来られたと聞いている。我が国もそのように改革しようとお考えなのでは? そのためにお金が必要なんじゃないか?」
 そんな噂が広まり、国民は不平を唱えつつも徴税に応じた。ところが、若い国王は集まった金を絵画や宝飾品に惜しげなく使った。
「妾に税金をつぎ込んでた色狂いの王が死んでほっとしたのに、今度の王も贅沢三昧なのか!」
 国民は王に失望を覚えた。留学帰りの新国王に身構えていた一部の家臣は、意外に扱いやすい相手と判断して胸をなでおろした。前国王のように機嫌を取ってお飾りの玉座に祭り上げておけばよい。しかし、彼らは自分たちの考えが甘かったことをすぐに知ることになる。
 ある伯爵が国王に取り入ろうとした。
「国王陛下。私が懇意にしている宝石商が珍しい石を使ったペンダントを手に入れたそうです。この世のものとは思えない、素晴らしい出来だそうですよ。よろしければ陛下に……」
 国王は最後まで聞かず、その伯爵の首をはねた。
「私に意見するな!」
 この事件は瞬く間に宮廷中に知れ渡った。その後も国王は事あるごとに気に食わない者を次々と殺めていった。大人しく誰かの掌の上で踊らされるような人物ではなかったのだ。臣下の者たちは気に入られる方法がわからず、次は自分が殺される番ではないかと震え上がる。やがて国で王の非道ぶりを知らない者はいなくなり、度重なる課税に喘ぐ民衆は更に不満をため込んでいった。
 期待外れの暴君――。それが国王に対する評価となっていった。
 国王は新しい城を作ることを決め、国中から人足を集めた。男であれば駆り出され、重労働に従事させられる。劣悪な労働環境、賃金は雀の涙。働かされる者たちも、男手を取られた町や村も、国王への鬱憤を募らせていく。
「こんなにひどい王がいるだろうか」
「俺らは王のわがままのためにパンを買うのを我慢してるんじゃない!」
「自分だけ立派な城に住んで、豪勢な食事をして……。わしらの暮らしを知ってるのか?」
「しかも機嫌が悪いと誰であろうと容赦なく殺す。血も涙もない王だ。王の資格はない!」
 王の娯楽のための重税、強制労働、生活苦、気まぐれに重ねられる処刑――。国民の怒りは限界に達し、あちこちで暴動が起こり始めた。

「陛下、どうかお考えをお改めください。滅びの道を選ばれるのですか?」
 側近が国王に懇願する。
「今更後戻りはできない。私は覚悟を決めている」
 国王は静かに答える。側近は瞳を潤ませながら国王にすがった。
「しかし、陛下がお気の毒です。殺生など好まれないお優しいお人柄も、その聡明さも、誰も知らないのです。暴君と誤解されたままでは、あまりにおいたわしい……」
「それが私の望みだ」
 国王が側近を制し、かすかに微笑む。
「この王朝は長く続きすぎて腐敗している。民を救う力など残っていない。その場しのぎの改革は、却って国を疲弊させる。それに、一人の王が国を治める時代はもう終わりだ。これからは国民が自分たちの手で国を治めるのだ。しかし、彼らは責任を持つことを嫌がる。何か困難がおこると『昔は良かった』とすぐに以前を懐かしむ。責任を放棄して自分たちを治めてくれる者を求めるだろう。だから、王室は二度と昔に戻りたいと思わないほど、憎まれて憎まれて倒されるべきなのだ。これは私にしかできない役目だ。最後の王としての務めだ」
 国王の言葉に、側近は泣き崩れた。
「ですが、陛下のお幸せは……」
「王である以上、国のために命を捨てるのは当然だ。いいか、決して他言するな。このことを知っているのはお前だけだ。誰かに漏らせば、お前の家族を殺す」
 国王は毅然と言い放った。
「……王政が終わり、国民が自らの手で自ら責任を持って国を作っていけるよう……。私が愚王として歴史に名を刻むことになろうと、この国の輝かしい未来につながるならば私は本望だ」
 国王は窓から外を見た。暴動が起こっているのか、遠くに火の手が見える。
(私があの火に包まれる日も近いだろう)
 公務の時間が近づいている。国王は再び暴君の仮面を被り、私室を後にした。 




※2013年7月に執筆。


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