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作品名:Geminiが微笑む日 作者:光石七

第8回   (二)データ提供C

「ああ。誓って妙な気は起こさない」
 水内はそう言うと部屋の冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、喉に流し込んだ。声を張り上げていたせいで、喉がカラカラだ。
「お前も飲むか?」
 グンに飲みかけのペットボトルを差し出す。グンは受け取って一口飲んだ。
「約束ですよ? リンに変な真似したら命は無いと思ってください。いや、死ぬより辛い地獄だと覚悟しておいてくださいね」
 さらに念を押すグンに、水内は呆れてしまった。
(こりゃ重症だな)
 グンは残りを飲み干し、ペットボトルのキャップを閉めた。
「じゃあ、サムにマッサージを頼んでおきます。今がいいですか?」
「いや、他に仕事があるならそっちを優先してもらっていい。サムの都合がつく時で」
 水内はサムを気遣って答えた。
「わかりました。――パソコン、いります?」
 意味がわからず面食らったが、先ほどの言い合いを思い出し、水内は苦笑した。
「今のところまだいい。そのうちネットを使うかもな。エロ動画じゃなくて、ニュースとか世の中の出来事を知るために」
「またまた。ホントは見たいんでしょ?」
 グンが茶化す。
「それはお前じゃないのか? 健康な男子なら当然だ」
 逆に水内がグンをからかった。二人で顔を見合わせて吹き出した。
「リン以外なら、水内さんがどんな対象を愛そうと構いません。動画もエロゲーも好きなだけどうぞ」
「お前、偏ってんなあ……。あ、そういえば、なんでお前ら日本語なんだ? ミラー博士が日本語で話すからお前らもそうだっていうのは、サムから聞いたけど」
 水内は『Canaan』に来た時から気になっていたことをグンに尋ねた。一瞬顔がこわばったグンだったがすぐ笑顔に戻り、穏やかに答えた。
「所長の最愛の人が、日本語を好んで使っていたからです。所長も日本の文化は素晴らしいと絶賛してたし。それに、ボクとリンには日本人の血が四分の一流れてるんですよ」
「お前ら、クォーターだったのか。母親がハーフってわけだ。ミラー博士は奥さんに合わせて……。なるほどな」
 水内は納得した。
「ミラー博士は夫婦で出かけてるのか?」
 子供たちとサムだけがここに残っていることから、水内はそう推察した。
「僕たちに母はいません。ずっと前に死んでます」
「あ、悪いこと聞いたな。ごめん」
 表情を変えずに答えたグンに水内は謝った。
「気にしないでください。じゃあ、僕はこれで」
 グンは水内の部屋を出ていった。


 その頃、リンは水内の健康診断のデータと今日の結果をパソコンに入力していた。
「リン様、そろそろ食事にしませんか?」
 サムが声をかける。
「キリがいいところまでやったら食べる。グンは?」
 リンはパソコンに顔を向けたままだ。
「水内様と少し話してから、バクテリアの様子を見ると」
「ああ、いつものやつか。毎日熱心だな」
 グンは農業や医療への活用を目指して、微生物を独自に研究していた。
「夕食はご一緒がいいですか?」
「集中すると時間を忘れるだろうし、声をかけなくてもいい」
 リンの動きが止まった。サムのほうを見る。
「ナッドが出ていくところ、サムも見てないんだよな?」
「はい。メンテナンス中でしたので」
「そうか……」
 リンはうつむいた。
「食事の用意をさせていただきます」
 サムが退出した。


 水内と話した後、グンはミラー博士の部屋にいた。フロッピーやCD-R、メモリーカードを次々にパソコンに挿入し、中身を確認していく。
(くそっ、違うやつばっかだ)
 隠すように保管されていたデータを探しては内容を見る。このひと月ほど、グンはこの作業を繰り返していた。
(……ん?)
 次のメモリーカードを差し込んだが、素直に読み込まれない。画面にポップアップが表示される。
『Password,please!』
(みつけた……)
 グンは思いつく言葉を入力し始めた。


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