〜エピローグ〜
その双子の科学者は、小さな島で暮らしている。
「リンお姉ちゃん、元気になったら遊びに来てね」 「グンお兄ちゃんも待ってるよ」 プールサイドに並んだ子供たちが叫んでいる。端っこに水内の姿もある。 「こんなこっぱずかしいビデオ撮らなくてもいいのに。――水内さんの水泳教室うまくいってるみたいだね、リン」 グンは車椅子に座ったリンと一緒に水内からのビデオレターを見ていた。やがて再生が終わり、グンはパソコンをシャットダウンした。サムが片付けを始める。 「リン、散歩しようか。サム、戻ったらお茶にするから用意しといて」 グンが車椅子を押し始めた。 リンが倒れてから二年が過ぎた。リンの状態に大きな変化は見られない。相変わらずしゃべらないし、感情を表すことも自発的に動くことも無い。初めのうちは点滴で栄養を摂っていたが、神経に信号を送ることにより自力で咀嚼・嚥下できる装置をグンが開発したため、口元に一口ずつ運べば普通の食事はできる。筋肉が固まってしまわないよう、マッサージも欠かせない。 「気持ちいい風だね」 外に出て、グンがリンに話しかける。 「ここも一種の楽園だよね。自然は豊かだし、生活に不便は無い」 花が咲き乱れ、蝶が飛んでいる。一匹の蝶がリンの髪に止まった。 「あはっ、ランタナにつられたのかな?」 今日はリンの髪に生花が飾られていた。グンの心遣いだ。グンはリンの正面に回ってみた。 「リン、すごくきれいだよ。写真撮ろうか?」 グンがそう言った途端、蝶は飛び立ってしまった。 「あー、行っちゃった……」 がっかりしたグンの鼻先に、今度は別の蝶が止まった。 「へ? あ……っくしょん!」 グンのくしゃみに驚いたのか、この蝶も飛んで行ってしまう。 「……ちょっと、ハナ違い……」 グンは少々恨めしげに蝶を見送った。 「あの蝶、僕をバカにしてないよね?」 グンはリンのほうを振り向いた。 「……リン?」 リンは口角を上げて微笑みを浮かべていた。
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