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作品名:Geminiが微笑む日 作者:光石七

第32回   (五)本当の願い@
(五)本当の願い


 ゲームの後、水内はリンと食堂に向かった。
「……ご機嫌斜めだな」
 ぶすっとした顔で席に着くリンに水内が言った。
「遊星如きに逆転負けなんて……屈辱だ」
「如きって何だよ。そんなに俺を見くびってたのか?」
「あんな裏ワザを使えるとは思わなかった。ただの水泳馬鹿のくせに……あー、くそっ」
 本気で悔しがるリンが子供じみてかわいらしく、水内は思わず笑みをこぼした。
「何笑ってんだ。次は絶対勝つからな」
 食事が運ばれてきて、リンの立腹もひとまず収まった。薬でも混ぜられていないか不安がる水内を見かねて、リンが自分の分と取り換えてくれたため、水内も箸を付けることができた。
 二人で食べていると、グンが食堂に入ってきた。ほんの一瞬だが険しい視線を感じ、水内が緊張する。
「グン、一緒に食べないか?」
 リンがグンに声を掛けた。
「ううん、食事のために来たんじゃないんだ。バクテリアの実験に使う食材の見繕い」
 いつもの笑顔で答えるグン。
「熱心なのはいいけど、ちゃんと食べろよ」
「ありがと。研究室に持ってきてもらうことにするよ」
 愛想がいいのはリンの前だからか。
「それから、あまり遊星を脅かすなよ。殺されるんじゃないかって、マジで怖がってるぞ」
 リンが付け加えた言葉を聞き、水内は「えっ?」と思った。一応覚えていてくれたらしい。
「あ、うん」
 グンはあっさり頷いた。
「遊星、これで大丈夫だ」
 リンが水内のほうを向いてにっこり笑う。
「え、それは……リンの手前だからで……。リンがいない時はわからないんじゃ……」
 水内はおずおずと言った。グンの怒りを買うかもしれないが、リンにこれだけで片付けられても困る。
「おいおい、グンを何だと思ってるんだ? いい年したオッサンがビビり過ぎだろ」
「ただの脅しと本気の違いくらいわかる。これでも元アスリートだからな」
 リンの記憶がすり替わっている限り信じてもらえないかもしれないが、水内にとっては正に死活問題だ。
「あーあ、ゲームで少しは気持ちが切り替わったかと思ったのに……。どうすりゃいいんだよ?」
 リンはため息をついた。
「しょうがない。今夜は遊星の部屋で寝てやるよ」
「ちょっと待った!」
 グンが口を挟んだ。
「リン、年頃の女の子が男の部屋に泊まったらダメだって! 朝も注意したよね? 一人で夜に男のところに行っちゃ危ないって」
「でも、遊星とは友達だぞ? それに、人の部屋っていっても『Canaan』の中だし」
「だから、そういうことじゃなくてさ……」
 相変わらずリンは鈍い。グンの心配を理解させるのは至難の業だ。グンは話の矛先を変えることにした。
「水内さんは、僕やサムがリンのいない場所で危害を加えるって思い込んでるんだよね? じゃあ、僕らは必ずリン同伴で会うようにする。部屋のロック解除装置もリンに預ける。水内さんは部屋にいる時は鍵をかけて、リンの姿を確認してから部屋に通す。多機能リモコンに廊下の監視カメラの機能も付いてるから、それを使えばいい。これなら文句ないでしょ? わざわざリンが水内さんの部屋で休む必要はないよ!」
 一気に言ったグンは息を切らしていた。
「グン、何ムキになってんだ? ……まあ、確かにそこまですれば遊星も安心だろ。遊星、よかったな。二人とも早く仲直りしろよ」
 グンの心中など知らないリンは楽観的な結論を出した。
(グンの奴、凄まじい心配ぶりだな……。とにかくリンが男と部屋で二人きりというのを避けたいわけか)
 水内もグンの譲歩を受け入れることにした。
 グンはすぐにロック解除装置を取ってきてリンに渡し、果物をいくつか選んで研究室に引っ込んだ。


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