「グン、そんなこと言ってたのか。脅しにしてはやり過ぎだな」 リンは困ったような顔をした。 「だから、脅しじゃなくてマジだったって」 水内は再度強調するが、リンは受け流す。 「グンは過保護なんだよな。私も子供じゃないんだから、友達作りくらい邪魔しないでほしい」 「十分子供だ……っていうか、俺が殺されかけた件はどうでもいいのか?」 「殺しはしないだろ。遊星がビビるのはわかるけど、グンも殺人鬼ってわけじゃないからな。脅しただけだろ」 やはりグンの殺意は否定するリン。 「いや、アイツはリンのためなら殺人も躊躇わない。マジで人類を滅ぼそうとしてるし」 実際に父親を殺しているし、グンの『エデン計画』を思い出しながら水内は告げる。だが、リンの記憶に父親が殺害された事実は無く、グンの真の思惑など想像もできない。 「いくらなんでもそれはない。平和のために研究してる奴が……って、遊星、気分悪いんじゃないのか?」 リンははたと気付いた。 「だから、グンにいつ殺されるかわからないから、食事を頼めなかっただけだ」 「すっかり疑心暗鬼だな。とりあえずこれ食うか?」 リンに今すぐすべてを理解してもらうのは難しいようだ。どちらにしろ一旦腹ごしらえをしたほうがいいと水内は判断した。 「……毒入ってないよな?」 「そんなもの入れてない。お粥は米から炊いてないから、そこまで美味しくないかもしれないけど」 水内のお腹が鳴った。ありがたくトレーの食事を頂くことにする。 「すげえ美味いんだけど」 粥を口に入れて水内が絶賛する。 「空腹だからじゃないのか? 一応圧力鍋で作ったけどな。梅干しも私が漬けたやつだ」 「へえ」 研究しか興味がないように見えて、意外に料理上手なのかもしれない。水内はリンが用意した食事を全部平らげた。 「ごちそうさん」 水内は手を合わせた。少量ずつだったが種類が多かったおかげで満腹だ。 「食が進んで何よりだ。グンには私から注意しておく。夕食は普通に食べろよ」 リンがトレーの上の食器を重ね始める。 「普通にって言われても……。あ、リンも一緒に食べてくれるなら安心か」 リンがいない場所では何をされるかわからない。水内は心細さを隠さなかった。 「そこまでグンを疑うのか? よっぽど脅しが怖かったんだな、いい大人のくせに……」 リンは呆れたように水内を見た。 「だから、脅しじゃなくて本気だったって」 水掛け論になる予感を覚えながらも、やはりこう言わざるを得ない。 「あー、わかったわかった。ちょっと気分転換しよう。気持ちが落ち着いたらとらえ方も変わるだろ。これ片付けてくるから、DSやらないか? Wiiのほうがいいか?」 リンは水内の不安を脇に置き、新たな提案を持ちかけた。 (やっぱ、信じろっていうのは無理か……) 問題を棚上げされてしまったのは残念だが、リンなりに気遣ってくれていることは伝わってくる。 「いいけど、研究は?」 「別に絶対今しなきゃいけないってことはない。一人でいると、遊星ろくでもないことぐるぐる考えるだろ?」 水内は驚いた。研究の虫ともいえるリンが、ここまで時間を割いてくれるとは……。 「……まさかリンがこんなことしてくれるとは思わなかった」 「友達って、相手が元気のない時無視するのか? 他人に家族みたいなことするのって初めてだけどな。これも私の実験だ」 リンはトレーを持って一度部屋を出た。戻ってきたリンは水内とゲームに興じ始めた。 部屋での一部始終をカメラ越しに見ている存在に気付かないまま……。
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