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作品名:Geminiが微笑む日 作者:光石七

第25回   (四)おもちゃ箱の中でD

 水内は休んでいた島内の見回りを再開した。部屋に籠っていても気が滅入る一方だ。グンがいずれ人類を滅ぼすつもりでいることはわかったものの、自分に何ができるのか。どうしたいのか。頭がもやもやする。考えるほど光が遠ざかり、逆に闇に取り込まれそうになる。少しでも鬱々とした気分を晴らそうと、外に出ることにしたのだった。
 見回りの途中でリンの姿をみつけた。毎日のように父親の帰りを待ち焦がれていた、あの場所だ。
(記憶は変わってるはずなのに……?)
 もしかしたら意識の根底に何か残っているのではないかと、水内は少し期待してリンに声を掛けた。
「何してるんだ?」
「見りゃわかるだろ。海を見てる」
 口調は乱暴だが、リンの表情はどこか柔らかかった。
「……ミラー博士を待ってるのか?」
 少々ためらった後、水内はリンに問いかけた。
「死んだ人間は帰ってこない。でも、海はナッドのお墓だし、見てるとなんだか心が落ち着く」
 以前とは理由が違うが、海に父親を想うのは同じだ。
「俺も博士に会ってみたかった。グンがあんなことしなければよかったんだが」
 水内はカマをかけてみた。事実を思い出さないだろうか?
「オッサン、また夢の話か? グンがナッドを殺したなんてありえない」
 リンが呆れたように水内に言う。
「それは、グンが記憶を書き換えたからそう思ってるだけだ」
 少し食い下がってみた。
「グンが私の記憶を書き換えた? 何のために? そんなことしても意味がない。研究を盗もうとしたスパイに、ナッドがそうやってお灸を据えたことはあったけどな」
 やはりリンは水内の言葉を信じない。
(暗示の機械もミラー博士が使ってたのか。自分で作ったのか? ……そうだろうな。臨機応変に応用したグンもすごいが)
 一つの分野を究めるだけでも大変なのに、どれほどの知識や技術を持ってるのか。天才の血が恐ろしい。
「オッサン、頭大丈夫か? 夢と現実くらい区別しろ。一応脳のMRIでも撮るか?」
 馬鹿にしているのか、心配してくれているのか、よくわからないリンの言い方。性格自体は全く変わっていない。
(これでかわいらしいところもあるし、惚れる奴もいるだろうが……。兄妹でっていうのはやっぱなあ……。しかも同じ顔の双子だし……)
 グンの異常さを思い出し、複雑な気分になる。
「おい、大丈夫か? 本当に検査するか?」
 リンがまっすぐ水内を見た。曇りのない瞳だ。
(純粋、か)
 リンに対する評価としては、的確な言葉だと思う。
「いや、大丈夫だ。だいたい、初めに健康診断しただろ? ――お前ら、一体どんだけ勉強したんだよ? その年齢で、語学も生物も医学も相当なレベルだ」
 水内はリンの意識を逸らそうと話題を変えた。
「ナッドがいろいろ教えてくれた。私たちも学ぶのが楽しかったしな。実験が遊びのようなものだったし」
 リンは昔を懐かしむような顔になった。
「普通の子供がやるような遊びはしなかったのか? かくれんぼとか鬼ごっことか……あと何だ? 今の子はゲームばっかりかもしれないけどな」
「かくれんぼも鬼ごっこも、小さい頃グンとよくやってた。『Canaan』には危ないものもあるからって、ナッドに叱られたこともあったけど」
 リンの答えを聞いて、一応子供らしいこともしていたかと水内は安心しかけたが……。


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