リンは胸倉を掴んだままグンを凝視していた。グンはリンの背中から手を放した。そのままリンの肩の上に置く。 「もっとショックが少なくて済むよう伝えるつもりだった。まさか突然、こんな形でばれるなんて……。もう嘘はつかないから、座って話そう?」 二人の体が少し離れる。 「サム、パソコン持ってきてくれる?」 サムに指示を出し、グンはリンを席のほうへ促した。 水内は椅子に座るグンとリンを少し離れて見ていた。この異常な事態に飲み込まれて呆然としてしまいそうだが、ミラー博士の名前で協力を依頼された以上自分も関係者だ。双子を仲裁したり宥めたりする大人も必要だろう。 サムにノートパソコンを持ってきてもらい、グンはインターネットでヌシエル共和国のクーデターの情報を確認した。 「……こんなに早く情勢が変わるなんて思わなかった」 グンがため息をついた。 「ナッドは、ヌシエルには行ってなかったのか?」 リンが声のトーンを落として尋ねる。 「うん、そう……。あの置き手紙は、僕が筆跡を真似て書いたんだ」 グンは静かに答える。 「……あの夜に殺したのか? それを隠すために、偽の手紙を翌朝私に発見させたってことか? 連絡が取れない状況だと思い込ませたのか?」 リンの瞳に憤りと悲しみが宿り始める。グンは寂しげに頷いた。 「そう……」 「確かに、ヌシエルなら長く音信不通でもおかしくない。その上、サムの目が届かない時を選んで殺すとは、ずいぶん用意周到だな。いつから計画してた? 私をずっと欺いてたのか?」 リンがキッとグンを睨む。グンは目を伏せた。 「初めから計画を立ててたわけじゃない。アイツの危険性がはっきりしたから……。リンのために……ああするしかなかったんだ。リンを守るためには」 「私のため……? どこがだ? ナッドは大切な父親で、尊敬する研究者だ。グンにとってもそうだろ? その命を奪うなんて!」 リンの声が高くなる。 「……大切な父親、か。やっぱりリンは純だね……」 笑っているような、怒っているような、グンの言い方だった。 「アイツが自分をどう見てたのか、ホントに気付かなかったんだね。リンはアイツを父親として慕ってたけど、アイツは……」 「『アイツ』って言うな! ナッドを侮辱するのか?」 リンが鋭く口を挟む。グンは顔を上げてリンをみつめ、シニカルな笑みを浮かべた。 「僕はあんな男を父と呼びたくない。アイツはリンが思っているような立派な人間じゃないよ。アイツがリンに向けてたのは、娘に対する思いじゃない。アイツは、リンを……」 グンの声に苦々しさが滲む。 「……アイツのリンへの態度はどこかおかしいって、十歳くらいから思ってた。僕への接し方とは違う。もちろん僕たちは性別が違うし、対し方に違いがあっても不自然ではないけど、それだけじゃ説明できない何か異様なものを僕は感じてた。――あの夜、妙に胸騒ぎがして眠れなくて、リンの部屋に様子を見に行ったんだ。そしたら、アイツが……眠ってるリンに……キスして、胸を……」 おぞましい光景を思い出してグンが声を詰まらせた。 「さらに服を脱がそうとするから、僕は急いでアイツの腕を掴んだ。アイツはやっと僕の存在に気付いたみたいで、呆けた顔してたよ。僕はとにかくリンから引き離さなきゃって思って、アイツをリンの部屋から引っ張り出した」
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