玄関のチャイムが鳴った。 「ナーナせんせ〜い!」 子供の声だ。とりあえず涙を拭いて、玄関まで行った。屋田君もついてくる。ドアを開けると子供が二人、兄妹かしら? 「ナーナ先生、いらっしゃいますか?」 小学校低学年らしい男の子が礼儀正しく聞いてくる。 「今出てるみたいだけど……」 子供に行方不明とは言いづらい。 「ちーちゃんは?」 五歳くらいの女の子が口を開いた。聞かれて奥の部屋を振り返る。ちーちゃんは棚の上で丸くなっていた。 「お昼寝中みたい」 「ちーちゃん、触ってもいい?」 女の子があどけない顔で私に尋ねる。 「お姉ちゃんじゃわかんないなあ……。いつも遊びに来てるの?」 二人とも頷いた。意外にレイザーストーンは子供好きだ。年の離れた妹がいるからか、精神年齢が近いのか、仲良くなるのも結構早い。学生時代、迷子の男の子と一緒にお母さんを探してあげたこともある。子供に向けるまなざしは優しい。この子たちも何かのきっかけで仲良くなったのかもしれない。子供は動物好きだしね。 「そうなんだ。でも、ちーちゃん逃げない? お姉ちゃん、いつも逃げられるんだけど」 「ナーナ先生が撫でやすいよう、捕まえていてくれます」 お兄ちゃんがはにかみながら言う。彼女のこういう子供への気遣いは偉いと思う。 「へえ。それなら触れるね。二人とも『ナーナ先生』って呼んでるの?」 「モウソウカだから、そう呼んでほしいって」 ……子供にまでペンネーム強要。まあ、幼稚園とか学校とかでも大人を「先生」って呼ぶし、その呼び方でもいいか。「モウソウ」の意味を子供たちが知ってたら怖いけど。 「今日ね、これ持ってきたんだよ」 女の子がポシェットから何かを取り出した。……これ、今話題の五花堂の一口ショコラバウムじゃない。パッケージも独特でかわいいのよね。人気のあまり、毎日品薄状態ってテレビで言ってなかったっけ? 「おやつをあげる代わりに、ちーちゃんと遊ばせてもらうの。ママがね、これは珍しいお菓子だよって。ナーナ先生にあげるから、いっぱいちーちゃんに触ってもいいよね?」 おい……。幼気な子供なんだから、タダで触らせてあげなさいよ。子供からおやつを巻き上げるんじゃない! 「おやつと交換なんて、大人げないわねえ。ママがくれたおやつなんだから、自分で食べていいのよ? ちーちゃんと遊びたいからって、何かと交換する必要ないの。ナーナ先生には、お姉ちゃんが怒っておくから」 ここは私にカッコつけさせてもらおう。 「ありがと、おばちゃん」 「バカ、お姉ちゃんだろ」 ……正直な妹に小声で注意する兄。確かに、おばちゃんと言われても仕方ないけどさ。屋田君が笑いを堪えているのがわかる。横目で睨むと、屋田君は慌てた。 「そ、そうだ。ちーちゃん連れてこようか?」 矢田君は一人奥の部屋に引っ込んだ。あ、ちーちゃん大人しく抱かれた。まだ寝ぼけてるからかもしれないけど。屋田君がちーちゃんを抱えたまま玄関に戻ってきた。 「俺が捕まえとくから、撫でてあげたら?」 屋田君の言葉を聞いて、二人はうれしそうに玄関の中に入ってきた。ちーちゃんに手を伸ばす。 「かわいー」 「毛がフワフワだー」 ちーちゃんは少々腑に落ちないような顔をしているけれど、子供相手だから我慢してよね。やっぱり子供の笑顔っていい。おやつの件はさておき、レイザーストーンもこの小さなお客様とのふれあいの時間を楽しんでいるに違いない。……他にお客が来てなかったりして。その可能性は大だ。 「タク、コト! ここで何してるの?」 ドアの外に、二人のお母さんらしき人が立っていた。
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