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作品名:レイザーストーン失踪事件 作者:光石七

第7回   (二)手がかり、手探り、空振りC

 あまり当てにならなそうな気配がプンプンするが、一応チェックしてみる。
 「家族」のグループには「ママン・アリティーヌ」、「ムッシュ・サトシ」、「シュン」、「ショコ」、「サッチー」。両親と弟、妹だ。意外に弟と妹の名前はそこまでいじってない。そういえばメールも電話も履歴はなかったし、弟妹から嫌われてるとか? 彼女、SNSは使えないしね。あれ? 屋田君はSNSのことは何も言わなかったな。気付かなかったのかしら? まあ、レイザーストーンには関係ないからいいけど。あ、「ナーナ・レイザーストーン」もこのグループに登録されている。自分にメールする時に便利なのかも。
 「親戚」のグループはざっと見た。さすがに親戚の名前までは知らない。でも、「○○おじさん」とか「○○おばさん」とか、結構普通だったので問題なさそうだ。「○○兄ちゃん」とか「○○ちゃん」は従兄妹だろうな。
 一番気がかりな「妄想関係」だけど……。「愛川優」、「アル」、「風守ケイ」、「グレイヴィル伯爵」、「セイラ」、「トーマ」、「パーシー警部」、「保科紫音」、「百瀬万里」、「森宮遥弁護士」、「ヤン」、「ユリア」、「ルーファス」、「レイ」、「レジー」。――自分の作品の登場人物の名前を電話帳に登録するかあ、普通? 中世ファンタジーのキャラもいるんですけど。電話もパソコンもないよね? ……架空の人物の名前の中に私の名前も紛れてた。レイザーストーンにとって、私は妄想内の人物なわけ? なんかもう、怒る気力も失せるんですけど。
 「グループなし」と名前がついてない「グループ4」以下も一応確認したが、「阿呆鳥出版」と「お茶の子病院」、近所の本屋以外は登録されていなかった。マジで友達いないわ、この人。
 屋田君に電話帳を調べた結果を伝えた。
「……俺、どのグループに登録されるんっすかね?」
 弱々しく屋田君が尋ねる。
「私の後任だから『妄想関係』かもね。『グループなし』だったら、万々歳よ」
 残酷だけど、現実から目を背けてもらっても困る。
「やだ……。俺、逃げたい……。やだよう……」
 屋田君は担当する人物の変人ぶりにビビッて涙ぐんでしまった。すっかり及び腰だ。まだ本人に会っていないのに。私が何故担当を嫌がってたか、わかってくれたかしら?
「しっかりしてよ。さっきの名探偵ぶりはどうしたの? 担当になったら大変なのはわかるけど、とりあえず今の状況を思い出して」
 存在は迷惑この上ないが、こんな形でいなくなられると後味が悪い。本当に彼女が危険にさらされているとしたら……。放っておいて万一のことがあれば、私は自分を一生責めるだろう。腐っても一緒に遊んだ幼馴染だしね……。
「これ以上は私たちでは無理ね。警察に届けたほうがいいかも。捜索願、出してみる?」
「……捜索願は親族が出すのが基本っすよ。恋人や同居人も最近OKになったけど。本籍なんかの情報も要るし、友人や知人では出せないんっす」
 何気に詳しい屋田君。
「それに、届けても警察がどこまで動いてくれるかは微妙っすね。事件性がないと書類の受理のみって場合が多いんすよ。保護したら知らせてくれるけど。脅迫の被害者は一応『特異家出人』ってことになりますけど、警察が事件性ありって判断するかどうか……」
 屋田君、どうしてそんなこと知ってるわけ? 過去に何かあったの?
「でも、ここでずっと待ってるわけにもいかないでしょ? 何もしないよりはマシじゃない」
「そうっすね……。先生のお母さんにでも伝えますか。いなくなったのは昨日の午後って考えていいんすかね?」
 サイトの掲示板から考えるとだけど……。
「あ、ネットの履歴を見たらわかるんじゃないかしら?」
「そのページを開いた時間まではわからないっすよ。今日はトーコ先輩が小説のサイトを開きましたよね?」
 屋田君って鋭いのか抜けてるのか…。それでも意地でチェックしたけど、昨日彼女がネットを使ったことと、私が今日使った形跡しかわからなかった。
「……実家にわかることだけ伝えるしかないかなあ。有江おばさん、すごくパニくりそう……」
 こんな連絡は心苦しいけれど、やっぱり人命第一だ。彼女を愛して心配する人がいる。私は自分の携帯を取り出した。


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