「ちーちゃん、ずっと元気だったけど……」 一応様子を伝えてあげた。 「それならよかった。夜中の掃除、ちょっと大変だったんだよね。吐いた物を片付けて、床拭いて。除菌スプレー吹っといたけれど、一応要らない紙を吐いた場所にかぶせてたんだ。……あれ? 紙、移動してる」 数々の脅迫状は、ちーちゃんの吐瀉物の跡を覆っていたのか。……ということは? 私たちがその紙を触ったということは? ……考えるのはよそう。 「そ、そんなことは別にいいじゃない」 「そだね。お世話してくれてありがと。――ちーちゃん、元気になってよかったね〜」 ちーちゃんの体に顔を埋めてモフモフするレイザーストーン。ちーちゃん、迷惑げながらも逃げないのは、やはりレイザーストーンだからだろうか。 「それより、ナーナ。ホントにどこ行ってたの? いつから出てたわけ?」 こっちは本気で心配したんだからね。アンタの新情報を得て、引いたり呆れたりすることも多かったけど。彼女はちーちゃんを抱っこして話し始めた。 「今朝十時過ぎくらいかな。魚の移動販売車が近所に来たんだ。ちーちゃんに断食させてるし、体調が大丈夫そうなら我慢したご褒美にお刺身を用意してあげようと思って。すぐ戻るつもりで、小銭だけ持って外に出たの。お兄さんお勧めのいいアジが手に入ったのにさ……。ルンルン気分で帰ろうとしたら、野良猫にアジを奪い取られて。ボク、必死に追いかけた。ちーちゃんのためのアジだもん、取り返さなきゃ。久しぶりに全力疾走したよ」 体育2、徒競走や持久走はビリから数えたほうが早いレイザーストーンの全力疾走だから、大した速度ではないだろう。勉強はまあできるほうだったけど、実技系は苦手なんだよね……。 「何度か見失いそうになったけど、ホシが止まっているトラックの荷台に飛び乗るのが見えた。だからボクもその荷台にちょっと失礼したんだ。やっぱりホシは中にいて、アジを巡っての大攻防」 刑事気分なのか、野良猫を「ホシ」と表現。大攻防と言うけど、絵を想像したらマヌケ……。ま、この人らしいわ。 「でも、相手は猫だからやっぱりすばしっこいんだよね。全然捕まらないし、荷物の隙間をかいくぐって外に出ちゃった。ボクも後を追おうとしたんだけど……。トラックが発車しちゃって」 「……」 「結局、隣の市まで運ばれて。アジ買ったお釣りしか持ってないし、帰ってくるの大変だった」 ……そんな理由? そんなくだらない事情で心配してしまった私たちって……。 「でも、脅迫状は? 掲示板のメッセージは?」 屋田君がレイザーストーンに尋ねた。 「脅迫?」 彼女が首をかしげる。 「『月のかけらがお前を貫く』って、『石守り』と名乗る人物から手紙やコメントが届いてましたよね? マジで怖かったんっすけど」 「ああ、あれ。見たんだ」 思い出したようだ。「見たんだ」はないでしょ、ちーちゃんの吐瀉物の後始末に使っといて。 「そうそう。ちーちゃんの食欲は異常だし、それもあったから、てっきり誰かの恨みを買って拉致されちゃったんじゃないかって……。余計に不安になったのよ」 「トウちゃん……。ボクのこと、心配してくれたの?」 レイザーストーンが瞳をウルウルさせる。 「ありがと! やっぱりトウちゃんはボクのサイコーの親友だ!」 ちょ、ちょっと! 急に抱きつかないでよ。放り出されたちーちゃんは華麗に着地して、再び座椅子の上へ。 「いつ私がアンタと親友になったのよ!?」 「え? じゃあ、恋人?」 「違う!」 「……新妻?」 どっちがよ!? …ってその前に私、同性愛者じゃないからね。あ、屋田君引いてる。
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