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作品名:レイザーストーン失踪事件 作者:光石七

第10回   (三)迷惑千万な妄想家B

 このお母さん、私と同い年くらいじゃないだろうか。かなり険しい顔をしている。
「勝手に光石さん家に行かないって約束したでしょ!」
「ごめんなさい。でも、ちーちゃんに会いたくて……」
 タク君もコトちゃんもうなだれている。母親は私と屋田君をじろっと見た。
「あの人はいないみたいですね。留守番の方ですか?」
「仕事の関係で来たんですけど……」
「どういう仕事か知りませんけど、うちの子にちょっかい出さないよう伝えてもらえますか?」
 言葉は丁寧だけど、棘を感じる言い方だ。屋田君の腕からちーちゃんがすり抜けた。奥の部屋に走っていく。
「でも、猫に触れてうれしそうでしたよ。失礼ですけど、彼女のことをあまりよく思っていらっしゃらないんですか?」
 おそるおそる聞いてみた。
「このアパートの人は、みんな嫌ってますよ」
 同じアパートの住人だったのか。全員を敵に回すって、彼女は一体何をしたんだろう?
「本当はここはペット禁止なんです。飼えるのはせいぜい金魚とか小鳥くらい。でも、光石さんは堂々とあの黒猫を持ち込んだんです」
 全体のルールを破ったんだ……。それは不快感を抱かせるだろう。
「注意しても聞かないんですか? 大家さんとか、管理人さんから言っても駄目なんですか?」
 ちーちゃんには申し訳ないけれど、社会には守るべきルールがある。
「大家さんが近所なので、管理人はいません。私たちから大家さんに伝えて注意をお願いしたんです。だけど……」
 母親の顔が歪んだ。
「光石さん、『この子はペットじゃない! ボクの姉です!』って」
「……」
 どう考えても無理があるでしょ、その設定。
「『死んだ姉の命日に出会ったんです! 姉の生まれ変わりなんです! 生きているうちにできなかったお姉ちゃん孝行をしたいんです!』って力説して。大家さん、涙もろいから泣いて同情しちゃって……」
「……」
 なんでそんな話を信じるわけ? しかも泣く? レイザーストーンは長女ですけど。
「結局、特例で同居OK。不公平ですよ。飼いたくても我慢してる人もいるし、猫が嫌いな人もいるし」
「それで嫌われてるわけですか……」
 嘘をついてまでちーちゃんと一緒に暮らしたかったのか。いや、本当にそう思い込んでいる可能性もあるけど。根性は認めるけれど、総スカンを喰らうのは仕方なさそうだ。有江おばさん、恨まれるはずのないあなたの娘さん、見事に恨まれてますよ。
「それだけじゃないんですよ。うちの子からお菓子をせしめるし、夜中に『フミャーッ!』とか『ミギャッ!』とかうるさくて。特にうち真下だから」
「……」
「注意しても『騒がしくてすみませんでした。姉と話してただけなんですけど』って平然としてて。大家さんはあの話を信じちゃってるから強くは言わないし」
 ……見事に周りに迷惑かけてるんですけど。フォローのしようがない気がする。だけど、子供に罪はない。レイザーストーンが誘拐するわけでもないし。おやつの件は厳しく言っておかなくちゃ。
「大変ですね。わかりました、私からも伝えておきます。でも、お子さんたちが遊びに来るのは許可してあげてください。動物とふれあうこと自体は悪いことじゃないですよね? ――ちゃんとママに言ってからここに来るようにしようね」
 こう言うしかないだろう。子供たちは頷いた。
「よろしくお願いします」
 母親がそう言って頭を下げ、親子は帰って行った。


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