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作品名:乾いた傷痕、届かぬ礫 作者:光石七

第3回   病める者の呟き


面白いことを教えてあげようか?
僕はね、大学で心理学を専攻してたんだ
笑えるだろう?
心理学を学んだ者が
患者として精神科にお世話になるなんて
もっとも、専門は臨床心理じゃなかったけどね

知ってるかい?
カウンセリングの基本は「共感」なんだ
相手の言うことを否定せず
頷いて受け止めてあげる
もちろん、それが悪いわけじゃない
それで気持ちが軽くなる部分があるのは確かだ
だけど、僕が求めていたのは共感じゃなかった
「うん、わかるよ」なんて言ってもらいたかったわけじゃない
僕がほしかったのは強い言葉だ
たとえそれが僕という存在を否定するものだとしても
思いきり引っ張り上げるか突き落とすか、してほしかった

中途半端な温もりは時に冷徹より残酷だ
これも一つの真理だと思わないかい?
共感は一時的な安らぎは与えても
根本的な救いにはならないのさ

そう言いつつ
結局僕も生ぬるい生活を送ってるんだけどね
いつかは抜け出せると漠然と信じて
現状に甘えている

ははっ、なんで君にこんなこと話してるんだろ?
いきなりこんな話聞かされても困るよね

ところで、君、誰だっけ?
あれ?
僕は……
誰だ?



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