20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:シロツメクサで冠を 作者:光石七

第23回   (五)馬鹿につける薬B

 知らせを受けた銀之助はすぐさま遥に連絡し、紅葉を助けてほしいと頼んだ。遥は弁護人として紅葉と接見し、詳しく状況等を尋ねた。一時間ほど話し、遥は銀之助に電話をした。
『先生、紅葉はどんな様子ですか?』
 銀之助の不安げな声が聞こえてくる。
「申し上げにくいのですが、あまり芳しくありません」
『落ち込んでいるんですか? 疲れてるんですか?』
「いえ、不自然なほど明るいんです。時々会話も噛み合いません。汗をかいてもいます」
『……酒に酔ってるんですか?』
「クラブで飲んだのは、カクテル一杯だけだそうです。紅葉さんはお酒に強かったですよね? ……おそらく、薬の効果だと思います」
『そんな馬鹿な! たまたま居合わせただけのはずだ!』
 銀之助が噛みつくように叫んだ。
「実際に女の子と遊ぶ目的で薬を買っています。本人の言葉を信じれば、薬は女の子と一緒に飲むつもりだったからまだ口にはしてない、と。でも、五十嵐先生の事件で取り調べを受けた時はあんなにおどおどしていた紅葉さんが、警察で元気いっぱいというのは少し変です。自分で飲んだのか、無意識のうちに飲まされていたのかはまだわかりませんが、おそらく尿検査も陽性反応が出る可能性が高いと思います。今、結果を待っているところですが……」
『紅葉はどうなるんですか?』
「薬の譲り受け、所持、使用で麻薬取締法違反です。このまま勾留されるのは覚悟しておいたほうがいいと思います。最悪、どうにか不起訴には持ち込むつもりですが」
『勾留、ですか……』
 銀之助の声から力が抜けていく。
「今はまだ会えませんが、差し入れはできます。とりあえず衣類と洗面用具を持ってきてあげてください。いくらか現金も渡してあげたらいいと思います」
『わかりました。みどりに持って行かせます』
 銀之助が了承した。
「今はハイテンションですけど、後が心配ですね。結果が出ないうちに決めつけて申し訳ありませんが、薬を飲んでしまったのはほぼ間違いないと思います。抜けた後の反動や後遺症、依存性もあるかもしれませんし……。落ち着いた頃にまた紅葉さんと話してみます。本人の意思によるものでなければ、まだ弁解の余地があります」
『あのバカが……』
「残念ながら、十日間の勾留が明日、明後日には決まると思います。そうなると家族との面会も許されます。なるべく早く出してあげるため、保釈請求をします。失礼ながら、紅葉さんはあまり意志が強くありません。勾留が長引くと、尋問に負けてやっていないことまで認めてしまう可能性があります。請求が認められるかは五分五分ですが、保釈金の用意もしておいてください。百五十万から三百万円くらいになると思います」
『わかりました。お手数おかけします』
「またご連絡しますので。大変だと思いますが、皆さんも休める時は休んでください」
 遥は電話を切った。


 遥の予見通り、尿検査の結果は陽性だった。紅葉は軽い頭痛と吐き気を訴えた。茂盛から『E』を買ったことは素直に認めたが、麻薬とは知らなかったし薬を飲んだ覚えもないと言い張る。遥は状況から店で出されたカクテルに混ぜられていたと推測したが、知らなかったという紅葉の主張はなかなか認められなかった。誰もが口にする言い逃れの典型だからだ。いかにこの点を実証し、合理的に説明できるかによって処分が変わってくる。弁護士の腕の見せ所だ。
 ほどなく十日間の勾留も決定した。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 3294