20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:シロツメクサで冠を 作者:光石七

第19回   (四)優等生の反乱F

 一部始終を知ったみどりは、碧斗と美咲と会って話をするよう銀之助に懇願した。美咲が未婚の母であることと縁者に犯罪者がいることはみどりも快く思わないが、愛しいわが子に見限られるのはもっと辛い。だが、銀之助はなかなか承諾しない。
 碧斗は美咲のアパートで一緒に暮らし始めた。ズィルバーンに辞表を提出し、職を探した。簿記二級と宅建の資格を持っているが、さすがに就職難の時代、簡単には次の仕事は決まらない。一人アパートを訪ねたみどりは美咲の人柄と美月の愛らしさを認めたが、やはり内心複雑だった。仕事が決まったら籍を入れると碧斗は話した。美咲の実家にも挨拶を済ませたらしい。
 銀之助は美咲の身辺調査を興信所に依頼し、美咲の母方の叔父が強盗傷害で服役中であり、弟にも窃盗の前科があるということを知った。この結果は銀之助の結婚反対の姿勢をさらに強めた。しかし碧斗は自分の主張を曲げない。
 一條家には多額の慰謝料を払い、平身低頭して謝った。碧斗も改めて紗雪と一條家の両親に謝罪した。「今後も仕事上のお付き合いは続けましょう」と言ってもらったものの、一條の信頼を失ったのは明らかだった。当然式場もキャンセルだ。
 そのうち碧斗は不動産関係の会社から内定をもらい、美咲と入籍した。銀之助と碧斗、父子の溝は深まるばかりだ。みどりは影原家の両親とも会い、結納代わりの祝いの品を贈ったようだが、銀之助は頑として美咲にも向こうの親とも会おうとしない。碧斗にも家の敷居をまたぐなと言わんばかりだ。紫音はみどりと一緒に美咲と美月に会いに行った。紅葉は相変わらずのマイペースぶりで、我関せずを決め込んでいる。
 こうして保科家の絆にほころびが生じてしまった。


「百瀬先輩、遅くなってすみません」
 遥は、T大学の先輩で今は便利屋ミリオンの店主をしている百瀬万里(ももせばんり)と居酒屋で待ち合わせていた。
「俺もさっき来たとこ。とりあえず、ビールとからあげでいいか?」
「あ、チャンプルー食べたいです」
 メニューを見ながら二人で注文していく。店員がジョッキに入った生ビールを二つ先に持ってきた。
「森宮さあ、最近俺に仕事持ってこないよなあ?」
 一杯目のビールを一気に飲み干して百瀬が言った。
「一段落したので。先輩のおかげで本当に助かりました」
 遥が礼を述べた。
「でも、あれ何だったんだよ? 近くの不良グループのリーダーの名前や、保科っていう女子高生の行動範囲を調べろなんてさ」
「報酬をはずむ代わりに余計な詮索はしないという約束でしたよね?」
 遥が微笑む。
「前は何度か県外から手紙を投函させられたし。まさか俺、犯罪の片棒担がされたりしてないよな?」
「先輩に迷惑がかかることはありませんから」
 つまみの料理が少しずつテーブルに運ばれ始めた。
「なーんか引っかかるんだよな。弁護士の守秘義務もあるのかもしれないけどさ。客の名前は出せないにしても、何のためかくらい教えてくれてもいいのに」
「便利屋さんはいちいちお客の目的を聞くんですか? 頼まれれば何でもするのが売りでしょう?」
 ゴーヤチャンプルーをつつきながら遥は反論した。
「何でもっつっても、さすがに警察沙汰になるようなヤバいことはちょっと……」
「そういうことじゃないので安心してください」
「安心させたいなら、ちゃんと理由を言えって。森宮のことだから一応信用するけどさ。イマイチ釈然としないんだよなあ……」
 百瀬は右手でジョッキを持ちブラブラさせている。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 3406