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作品名:シロツメクサで冠を 作者:光石七

第18回   (四)優等生の反乱E

 銀之助は碧斗を平手で打った。
「俺は絶対に認めん! ズィルバーンの次期社長がコブ付きの女を娶るとは! しかもいわくありげな親戚がいるだと? いい世間の恥さらしだ!」
 碧斗は少し目を閉じていたが、不敵な笑みを浮かべて言った。
「ズィルバーンの社長がそんなに頭が固くてどうするんですか。僕は社長の椅子なんか興味ない。今の課長の地位も返せというなら喜んでお返ししますよ。僕なんかより適任の人がいるでしょう。何が世間の恥ですか。恥ずかしいのは父さんだ。もっと器の大きい、理解のある人だと思ってたのに。息子として残念です。さっきも言ったけど、僕は美咲さんを侮辱する人を許せない。たとえそれが実の父親でも」
「そこまで骨抜きにされたか! ……ははっ、俺が父親で残念か。なら、縁を切るか?」
 乾いた笑い声を上げながら銀之助が碧斗に詰め寄る。
「そうしたければどうぞ。美咲さんに会うこともせず、世間体だけで反対するんですか。そんなに度量が狭い人だとは知りませんでした」
「お前が苦労するとわかってるからだ! 子供に要らぬ苦労をさせたい親がどこにいる?」
 碧斗は冷ややかな視線を銀之助に投げかけた。
「僕のためと言いつつ、結局父さんは自分の世間体が大事なんですよ。未婚の母や犯罪者の親族に厳しい目を向ける人がいることは知っています。でも、僕は美咲さんの全てを愛してるんです。必ず幸せにしてみせる」
 碧斗の言葉はさらに銀之助を怒らせた。
「犯罪者だと!? お前という奴は……。一條家との縁組を棒に振ってまで、結婚する相手ではない!」
 碧斗はため息をついた。
「反対は覚悟してましたが、ここまで話が通じないとは……。一條家への償いはしますよ。僕の一方的な都合ですから。だからといって美咲さんを責めるのは間違いだ。彼女は何も悪いことはしていない」
「犯罪者が身内にいること自体、問題だ。お前が思うほど世間は甘くない」
「……いくら話しても平行線のようですね」
 碧斗はもう一度ため息をついた。
「きちんと彼女と会って話してみてください。彼女の中身を知ってほしいんです」
「会う必要などない。紗雪さんとの結婚は延期してもいいが、その女との結婚など俺は断じて認めん」
「僕はもう二十八ですよ? 親の許可がなくても結婚できます。どうせならきちんと認めてほしいんですが」
「認められる相手と結婚しろ! そんな女と一緒にさせるためにお前を育てたんじゃない!」
 碧斗も銀之助も譲らない。
「どうしても反対するというなら、僕はこの家を出ます。こんな家に美咲さんを迎えても彼女が傷付くだけだ」
「ほう、やってみろ。途中で音を上げるに決まってる。出ていくなら、ズィルバーンを辞めろ。自分の身一つで、その女と子供を守れるか?」
 売り言葉に買い言葉だ。
「別にズィルバーンに執着はないので結構ですよ。課の皆さんに迷惑をかけるのが心苦しいですが。誰も味方がいないなら、僕が彼女の味方になるしかない。全力で守ります」
 碧斗は再び決意を口にした。
「――出ていけ! お前は勘当だ! ズィルバーンもクビだ!」
 銀之助はわなわなと震えながら叫んだ。手塩にかけた跡取り息子が、今になって親に逆らうとは……。
「わかりました。今までお世話になりました」
 碧斗は丁寧に一礼して銀之助の部屋を後にした。そして荷物をまとめて家を出ていったのである。


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