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作品名:シロツメクサで冠を 作者:光石七

第17回   (四)優等生の反乱D

 しかし碧斗は首を横に振った。
「美咲さんはそんな人じゃありません。大学の先輩なんです。きれいで優しくて、学生時代憧れてました。でも、当時は恋人がいたから気持ちを伝えられなかった。二年前、取引先から帰る途中に偶然再会して……。それからたまに会うようになったんです。一緒に食事をしたり、美月ちゃんと遊んだりしているうちに、お互い惹かれ合うのを感じて。でも、一條家との縁談が持ち上がって、彼女は弟や叔父のこともあるし別れると言ったんです。僕も一度は承知して紗雪さんと婚約したけど、やっぱり僕は美咲さんのことを一番愛していると気付いたんです。もう一度話し合って、互いの気持ちを確かめました。どんな親戚がいても彼女は彼女だ。美咲さんも僕を愛してくれているし、美月ちゃんも僕に懐いてる。苦労だなんて思いません。僕は美咲さんを幸せにしたい。美月ちゃんの父親になる覚悟もできている」
 碧斗はしっかり銀之助の目を見て話した。銀之助は体をブルブル震わせた。
「お前はズィルバーンの跡取りなんだぞ? そんな女と一緒になるのか? 恥ずかしいと思わんのか!」
「何が恥ずかしいんですか。僕も美咲さんも、誰かに恥ずべきことは何一つしていない。美咲さんは芯が強い、美しい女性です。僕にはズィルバーンよりも美咲さんが大事です」
 碧斗はそう言い切った。
「……親のおかげで恵まれた生活をしてきたくせに、一丁前の口を叩くな!」
「そのことは感謝しています。何不自由なく育ててもらって。でも、僕は美咲さんのためなら全てを捨ててもいい」
 憎らしいほど碧斗は落ち着いている。
「家も会社も家族も捨てるか? それだけの価値がある女か? どれだけいい女か知らんがな。人には分相応というものがあるんだ。子連れで訳ありの親戚がいる女より、もっとお前にふさわしい相手がいる」
「美咲さんほど僕にふさわしい人はいません。彼女といると、僕は本当の僕になれる」
 銀之助の言葉に揺らぐような碧斗ではなかった。銀之助は悔しさを噛みしめつつ言葉を探した。
「本当のお前、か。与えられてばかりきたお前が、自分の力だけでできることなど知れている。学歴も肩書きも俺のおかげで手に入れたものだ」
「確かに僕の力はちっぽけです。だけど美咲さんと美月ちゃんを守るためなら、僕は全力で戦う。自分の持てる力以上の力を出して見せる」
 碧斗は力を込めて言った。銀之助は負けじと反論する。
「お前は結婚というものをわかっていない。その子が将来お前に反抗したらどうする? お前の子供が生まれたら、いじめるかもしれないんだぞ。俺は血の繋がらない孫など欲しくないし、自分の孫がそんな不憫な環境で育つのは見たくない。お前は父親になる覚悟があると言ったが、どれだけ大変かわかっていない。そもそも子供は女がお前の気を引くダシだ。泣きを見る前に目を覚ませ!」
 銀之助は碧斗の胸倉を掴んだ。
「僕は自分の子供ができても美月ちゃんを差別するつもりはありません。兄弟がケンカするのはごく当たり前のことです。それに美咲さんを侮辱しないでください。他の全てを犠牲にしても愛し抜きたい女性です。誰にも責められる筋合いはありません」
 碧斗は抵抗せずに銀之助をじっとみつめながら話した。


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