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作品名:銀色に燃える月 作者:光石七

第6回   (三)紫の長衣A

 イザベルの言動はヤンに衝撃を与えた。誰からも好かれるはずのニナを呪うなんて……。ニナは何も悪くない。イザベルが勝手に逆恨みしただけだ。悲しすぎる。怒りをぶつける価値もない相手だとヤンは思った。
 両親も恨まれるような人たちではなかったが、一方的な思い込みからくる逆恨みという可能性もあるのだと気付かされた。
 少し気になるのは、まじない師と一緒にいたという若い女だ。銀髪をかつらで隠しているとしたら……。違うかもしれないが、会って確かめたい。
 ヤンは懐中時計を取り出した。
「ニナ……。お前は犯人を見たのか?」
 懐中時計をみつめたまま、ヤンは動かなかった。


 翌日、ヤンは仕事を休んでモーヴの町に出かけた。まじないの店はほとんど看板を出していない。法的な許可を受けていないからだ。秘密裏に評判が伝わって客が集まる。どこに店があるのか、どうすればまじない師に会えるのかわからない。だが、この町にいることは確かだろう。道端に露天商たちが店を出していた。さっそくまじない師のことを尋ねてみた。
「まじないの店? 知らねぇな」
「ここらで商売するにはショバ代がいるのさ。勝手に客引きされたら迷惑だ」
「今時まじないなんて流行らねぇだろ。インチキ、インチキ」
「兄ちゃん、それよりこのブレスレットどうよ? 惚れた女に贈ればイチコロだぜ」
 真面目に取り合ってくれればいい方だ。商店にも何軒か入って聞いてみたが、大した情報は得られず、ヤンはため息をついた。
「……パーシー警部に言ってから来ればよかった」
 確かめたい一心で来たものの、やみくもに探す羽目になったことをヤンは後悔した。警察の力があれば、効率的に探せたかもしれない。
 今度は奥の路地に足を延ばしてみた。小さな子供たちが遊んでいる。ヤンは声をかけた。
「まじないの店がどこか知らないか?」
「知らない。テスも知らないよね?」
「うん、見たことない」
「僕も知らないよ」
 ヤンは子供たちの言葉に落胆してしまった。
 一人でただ歩き回るだけでは無理のようだ。一度戻って、警察に話そう。そう思ってヤンは引き返し始めた。
 住民や露天商以外にも通行人が結構いる。服装も年齢も、髪の色も瞳の色も人それぞれだ。出店で立ち止まって品定めしている客もいる。急いでいる人も多いし、全員に聞いて回るのは難しい。
「ババア、ふざけるなよ!」
 大きな声に、思わず振り向いた。露天商の一人が客に怒鳴ったようだ。
「ふざけてるのはそっちさ。この石は偽物だね。そんな値で売ろうなんて、ぼったくりもいいとこだよ」
「言いがかりはやめろ!」
「これでも見る目はあるつもりさ。せっかく上客の注文を受けたのに、その石じゃ希望通りに作るのは無理だね。他を当たってみるさ。――レイ、行くよ」
 老婦人らしい客は、レイと呼んだ連れとともに出店を離れた。ヤンはその客たちを見て驚いた。二人ともフードを被っていたので後ろからはわからなかったが、白髪の老婆と黒髪の若い女性だ。フードとつながっている長衣も、よく見ると薄い紫だった。
 ヤンは二人の後をつけることにした。二人はしばらく歩いて別の露天商で石を買った。そしてまた歩き出し、近くの角を曲がって裏道に入った。ヤンは気付かれないよう距離をとりながらついていく。
 急に角を曲がられてヤンは慌てた。見失ってしまう。小走りで角に向かった。曲がろうとした途端、若い女のほうが小路から出てきてヤンの前に立ちふさがった。
「何者だ? 何故尾行する?」
 鳶色の冷たい目でヤンを問い詰める。
「え……。その……」
 ヤンは答えに窮した。目の前の黒髪が揺れ、女の足が振り上げられたと思ったら、みぞおちに衝撃を感じた。ヤンはそのまま意識を失った。


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