ヤンは庭師の仕事を再開した。仕事に集中している間は気を紛らわせることができる。しかし、アパートに一人いるのは辛かった。どうしてもニナのことを思い出してしまう。教師になって学校を作るというニナの夢はもう叶わない。 「ヤン、ちゃんと食ってるか?」 「そんな顔して、ぶっ倒れるなよ。こっちが迷惑だから」 「うちの奴が作ったから、これやるよ」 師匠や庭師の仲間たちが心配してくれる。下手な慰めの言葉をかけないのが、かえってありがたかった。 パーシー警部が新しい情報を伝えてくれたのは、九日後のことだった。 「犯人をまだ捕まえられず、申し訳ない。十年前の事件のことも含めていろいろ調べているんだが……。ただ、他の署の連中から奇妙な話を聞いた。 ここ数年の間で、君の両親やニナのように、心臓を撃たれて亡くなった人が何人かいるんだ。銃弾も犯人もみつかっていない。しかも、現場の近くで銀髪の人物を見たという証言を得たケースもある」 ヤンはパーシー警部の顔をじっとみつめた。 「……同じ人物でしょうか?」 「顔まではっきり覚えている人は少ないようだが、おそらくそうだろう。銀髪を持つ子供や若い女性なんて、そういるもんじゃない。それぞれの事件の日付とその銀髪の背格好等の証言を照らし合わせると、同一人物が成長しているような印象を受けるんだ」 「やっぱりその女性が犯人?」 「断定はできないが、関与していることはほぼ間違いない。分別のつかないガキの頃から殺しに携わっているとは……。何ともやりきれんよ」 パーシー警部はため息をついた。 「みつからないんですか?」 「ああ。目立つ髪なんだが……。もしかしたら、普段はかつらでも使っているのかもしれない」 「……逆の可能性は? 犯行の時だけ銀髪のかつらをつけて、捜査の目を逸らしているとか」 ヤンは疑問をぶつけた。 「それはない。ただでさえ希少な銀髪だぞ? 老人のそれとは違う、輝きのある髪だそうだ。天然の銀髪のかつらは存在しないに等しい」 白髪ではなく、銀色に輝く髪。十年前に見かけたあの子供も確かにそうだった。 「だったら、何故わざわざ銀髪をさらすんでしょう? 普段のかつらのままのほうが目立たないはずなのに」 「わからん。それこそ捜査を攪乱するためかもしれない。銃声や銃弾の問題も気になる」 「確かに奇妙ですね……」 二人とも考え込んでしまった。 「……被害者に共通点は?」 「年齢も性別も職業も、見事にバラバラだ。恨まれそうにない人もいれば、天罰が下って当然という奴もいる。共通していると言えるのは、一発で心臓を貫かれているのに銃声も銃弾も確認できてないことと、銀髪の目撃情報だな」 「手がかりなのか、謎を深めているのか、よくわかりませんね……」 「そうだな。実行犯が殺しのプロなのは確かだと思うが」 「プロが罪のない人も殺すんですか? 僕の家族なんて貧しいし、誰かが得をすることなんて何もないのに……」 「動機もはっきりしないな。……警察では、銀髪の女のことを『銀の死神』なんて呼んでる奴もいる。ふざけたネーミングだよ。そんなこと考えてる暇があれば、自分の足で動けって言うんだ」 警部の言葉にヤンも同意した。
その夜、ヤンは夢を見た。銀髪の子供の後を必死に追いかける。子供とは思えないすごいスピードだ。その子が向かっていたのは、かつて家族四人で暮らした懐かしい家だった。 「逃げて!」 ヤンが叫ぶよりも早く、子供がピストルで両親とニナを撃った。ヤンが動けずにいると、子供はヤンのほうを向いてピストルを構えた。子供の顔ははっきり見えないが、笑っているのはわかる。 「……何のために、僕の家族を殺すんだ!?」 ヤンの質問には答えず、子供は引き金を引いた。
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