(二)銀の残像
ニナを殺した奴が許せなかった。探し出して制裁を下してやりたかった。ヤンは毎日のように警察に顔を出し、捜査の状況を尋ねた。学校にも足を運び、出会う生徒に片っ端からニナについて知っていることを問いただした。恨まれるような子ではないが、わずかな手がかりでも欲しかった。 「ニナは控えめだったけど、結構男子に人気があったんですよ」 そんな声をちらほら聞いた。当然だろうとヤンは思う。兄の目から見ても優しくてきれいな子だった。 「ニナに真剣にラブレターを書いた奴も何人かいますよ。ニナはみんな断ってたけど」 ニナからその話を聞いたことはなかった。もしかしたら、その中の誰かが振られた腹いせにニナを? だが、ラブレターの差出人を探して問い詰めても、きっぱり断られたので諦めたと話した。 「今は勉強に集中したいし、お兄ちゃんより素敵な人が現れたら考えるって言ってました」 ヤンは目頭が熱くなった。 ヤンの熱意にパーシー警部も胸を打たれた。 「若い連中に君を見習ってほしいくらいだ。最近の奴らはどうも執念が足りない」 「たった一人の肉親を奪われたら、誰だって諦めがつきません」 「十年前も両親を亡くしてるんだってな。その犯人も捕まってないとか。誰からも愛される人たちが、どうしてこんな目に遭うんだか……。世の中間違ってる」 ヤンは自分が得た情報をパーシー警部に伝え、警部は犯人の逮捕をヤンに約束する。そんな日が一週間ほど続いた。
さすがにヤンが学校で得る情報は限界になった。警察に行くと、パーシー警部はヤンを見て戸惑った表情をした。 「どうかしたんですか?」 ヤンが尋ねると、警部は少し目を閉じてから答えた。 「不確かな情報を伝えていいものか、と思ってな……」 「何かわかったんですか? 教えてください」 ヤンはせがんだ。 「……君は捜査にも協力してくれているし、当事者だから……。これから話すことはまだ事実が確認できていない情報だ。早まったことはしないと約束してくれるか?」 「はい」 パーシー警部は一呼吸置いて話し出した。 「事件当日の夕方、見慣れない女性が校門の近くに立っていたという証言があったんだ」 「女性?」 「白いシャツに黒のスラックス、帽子を被っていたそうだ。生徒の母親にしては若すぎるし、姉や親戚かもしれないと目撃者は思っていたらしい。普段は気に留めないのだが、特徴的な女性だったから覚えていて、自分の調べた範囲ではそういう家族や親戚がいる者はいなかったからと、警察に情報を提供してくれた」 誰かは知らないが、ニナのために動いてくれた情報提供者にヤンは感謝した。 「どんな女性だったんですか?」 「……銀髪だよ。若い人には珍しい髪の色だ」 「その女性が犯人だと?」 「早まるなと言っただろう。可能性があるというだけだ。参考人として今その女性を探しているんだが、まだみつかっていない」 ヤンは似たようなことが前にもあったことに思い当たった。 「両親が殺された時も……僕、銀髪の子供を見ました」 「何だと?」 パーシー警部は目を見開いた。 「その子供は? 警察には言ったのか?」 「言いましたけど……。結局どこの子かわからないままでした。当時の僕より少し背が低かったと思います」 「ただの偶然か……? 生まれながらの銀髪なんて滅多にいない。それが二度も君の家族の死に関わっているとは……」 一体どういうことだろうか。 「それに、両親もニナも心臓を撃ち抜かれてるのに、銃声も銃弾も確認できていません」 ヤンの言葉に、パーシー警部は険しい顔つきになった。 「……両親の事件も洗い直す必要があるな。もしかしたら、つながりがあるかもしれない」 「どうして僕の家族が……。何も悪いことはしていない。優しい人ばかりだったのに……」 思わず涙がこぼれた。 「絶対に犯人と真相を探し出す。それが俺たちの仕事だ。君も……辛いかもしれないが、そろそろ仕事に復帰しないか? 犯人を捕まえたい気持ちはわかるが、やはり警察の領分だから。何かわかったら必ず知らせる」 パーシー警部がヤンの肩に手を置いた。その手が温かくて、ヤンはさらに涙を流した。
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