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作品名:銀色に燃える月 作者:光石七

第24回   (八)紅の意味と涙色の月A

「それから……。『月のかけら』と預言書を見た」
 パーシー警部の言葉にヤンははっとした。
「どう思いました?」
「あまりに鮮やかな赤で驚いたが……。だが鑑定した奴の話では、外国ではあちこちで見かける物らしい。そう珍しくもないそうだ。預言書は内容を書き写してきた」
 パーシー警部は手帳を取り出した。
「ここからは俺個人の見解だ。判断は君に任せる。でも、君の気持ちの整理に一役買えればと思う」
 警部の温かい心遣いをヤンはありがたく思った。
「何故ありふれた赤い石が光ったり宙に浮いたりしたのか? レイの髪の色を変えたのか? 今の科学では説明できない。だが……昔から石には人の情念が宿ると言われている。それがレイに働き、相互作用を起こしたと考えられないだろうか?」
 実際にレイと『月のかけら』の変化を見ているヤンは、科学的根拠など求めていなかった。パーシー警部の考えも一理あると感じた。
「なるほど……」
「あくまで根拠のない一個人の考えだがな。しかも、警察にいながらオカルトとは……」
 警部は自嘲気味に笑った。
「預言も常識では説明がつかんな。

  『紅(くれない)は紅を欲す
   石守りにかけらを託すべし
   頭(こうべ)に銀(しろがね)を纏うがしるしなり
   かけらは石守りに闇のベールを与え
   石守りはかけらを満たす

   紅を紅に染めよ
   銀を紅に染めよ
   紅の月これ銀の月なり
   銀の月これ紅の月なり

   銀も紅も紅に還し時
   闇のベールは消え
   汝の望み叶う
   すなわち世のすべて得るべし』

 確かにレイと赤い石はこの預言にぴったりだった。ラウばあさんは『紅』を血だと解釈してレイに『月のかけら』を使わせて人殺しをさせたが……。それがそもそもの間違いだったんじゃないだろうか」
 パーシー警部は一瞬天を仰いだ。
「ヤン。君がレイと話している時に『月のかけら』が光ったと言ったな? 彼女がだんだん変わってきていたとも。多分それがこの預言の意味だ」
「どういうことですか?」
「最後レイは銀髪のままだった。『闇のベール』が消え、『紅』に還ったということだ。この時どんな状況だった?」
「え……。ゼグノールと秘書を殺して、使用人を一人殺して……。人が集まってきて、ラウさんがさらに殺すよう言ったけれど、従わなくて……」
 パーシー警部は頷いた。
「何故彼女はばあさんに従わなかったんだと思う?」
「……ゼグノールの家族たちが悲しんでいたから?」
「そうだ」
「あ……!」
 ヤンは気付いた。パーシー警部が続ける。
「『月のかけら』はレイの心に反応していたんじゃないだろうか。彼女が人の悲しみを受け止めたり、他者を思いやったり、人間らしい感情を持てた時に光ったんだ。『紅』は血のことではなかった。いや、血ではあるけれど物質的な血ではなくて、心ある人間に流れる赤い血を指してたんじゃないだろうか? 彼女が銀髪から変わらなくなったのは、彼女が本当に心を持った、血の通った人間になったからだと思う」
 ヤンはブラッシュマン邸でのレイの姿を思い出した。ラウを抱きしめ涙を流した彼女、ユマを気遣い寂しげに微笑んだ彼女……。
「きっと君が彼女を人間にしたんだよ。――それから、これも推測なんだが。預言を書いた人物は身近に銀髪の者がいたんじゃないかと思う。子供か、恋人か……。人は自分とは違う人間を差別する生き物だ。髪色のせいで謂れなき迫害を受けているのを目の当たりにして、それを戒めるために預言を書いたとしたら……?」
「意味が変わってきますね」
 パーシー警部の意見にヤンは相槌を打った。
「俺も家庭を持ってるからわかる。愛する者が自分を愛してくれれば、どんな高価な物をもらうよりうれしいんだ。愛する者を失ったら、たとえ世界を手に入れても虚しい。そう考えると、妻や子供は俺のすべてだ。妻との間に愛があって、子供が人として立派になればそれ以上望むことはない」
「だから、『世のすべて得るべし』と……」
「ラウも普通にレイを育てればそれでよかったんじゃないだろうか。預言を取り違えて、歪んだ欲望で育ててしまった。だから彼女も偏った人間になってしまったんだと思う」
 パーシー警部の表情が曇った。
「君と触れ合うことで、レイは本当の人の心を学んだんだろう。残念なのは、自ら死を選んだことだ。彼女は知らなかったんだな。ラウの元を離れて自分の人生を生きる道もあったことを」
「……レイも哀しい人間だったんですね」
 パーシー警部の考えは間違ってはいないとヤンは思った。


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