レイが赤い石のペンダントを外す。黒い髪が銀色に変わった。石が赤い粒に分かれて光りながら宙を漂う。ゼグノールと秘書は信じられない光景に固まっていた。 「……ひと言でも謝ってくれたなら、考え直したかもしれないのに。アンタが自分と家族の運命を決めたんだ」 ラウの目は少し濡れていたが、きっぱりとした口調だった。 「レイ、やめろ! これ以上手を汚すな!」 ヤンは我知らず叫んでいた。ユマは初めて見るレイの銀髪と『月のかけら』の力に言葉を失っていた。 「……ユマの目を覆っておけ」 レイが少し悲しげな声で告げた。ヤンは慌ててユマの目に手を当てた。赤い粒の動きが一瞬止まる。そして、そのうちの二つがゼグノールと秘書に向かって猛スピードで飛んだ。 「……っ!」 叫び声さえ出せないまま、二人は心臓を貫かれた。ゼグノールの体はソファに沈み、秘書は床に倒れた。秘書の手が花瓶に当たり、落ちて砕けた。 赤い粒がレイの元に戻ってくる。花瓶が割れた音を聞きつけたのか、使用人らしい女が応接室に入ってきた。 「旦那様、何か――きゃあぁぁ……!」 ゼグノールと秘書の死体を見て女は悲鳴を上げた。 「レイ、そいつもだ! この屋敷の連中は皆殺せ!」 ラウが叫んだ。女は混乱のあまりかただ立ち尽くしている。レイは彼女をじっと見据えた。赤い粒たちはレイの近くでふわふわ浮いている。 「他の奴らもいるからね。さっさと片付けな」 レイは少しためらいを見せたが、赤い粒を一つ女の胸に貫通させた。女が血を流して倒れる。レイは粒を自分の元に集めた。 「レイ、もうやめろ!」 ユマの目を覆ったまま、ヤンが叫んだ。他の使用人や家族と思しき女子供も集まってきた。 「あなた!」 「おじいちゃま……?」 「旦那様、しっかりなさってください!」 叫ぶ者、亡骸にすがる者、泣きわめく者、状況が理解できずおろおろしている者……。ラウはレイに命じた。 「さあ、『紅』をたっぷり『かけら』にあげな」 だがレイは従おうとしなかった。うつむいて体が震えている。粒に分かれていた『月のかけら』が一つになり、ペンダントの姿に戻った。 「お前らの仕業か!?」 一人の男がレイやラウたちに疑惑の目を向けた。 「レイ、早く始末しな!」 ラウが再度命令したが、レイは『月のかけら』を首にかけた。 「何してるんだい!早く!」 「……ラウ様、もうやめませんか?」 レイが震える声で言った。ラウは心外なレイの言葉に憤った。 「何を言ってるんだい!? アンタはアタシのために生きるんだろ? アタシの指示を――レイ、アンタ髪が!」 ペンダントを付けているのに、レイの髪は銀色のままだった。 「『闇のベール』が取れた! 『紅』に還ったんだ!」 ラウは喜びを露わにした。 「何をごちゃごちゃ言っている! 全員捕まえろ!」 使用人の男たちがヤンとユマに銃を突きつけ、レイとラウを取り囲んだ。ヤンはユマを自分のほうに向け、強く抱きしめた。 「アンタらごときに何ができる? アタシはこれですべてを手に入れる。アタシを怒らせないことだね」 ラウは余裕だった。 「何をふざけたことを……」 使用人たちは相手にしない。 「レイ、こいつらを黙らせな。アンタの力を見せてやるんだ」 ラウの言葉を聞いてレイはペンダントを外した。銀髪が美しく輝く。赤い石がいくつもの粒になって宙で光り始めた。この異様な光景に使用人たちはたじろいだ。 「これでアンタたちの主人を殺したのさ。同じように殺されたくなければ、大人しくしてるんだね」 得意げにラウは言った。その場にいる者は皆恐れを抱いた。ラウたちを拘束しようとした者も後ずさりする。ラウはその様子に笑みを浮かべた。 「みんな動くんじゃないよ。下手に動いてどうなっても知らないからね。――やっと落ち着いて望みを聞いてもらえる。ゼグは死んだし、家族はいつでも殺せる。とりあえず……アタシの青春を取り戻させてもらおうかね。レイ、『かけら』を元に戻しな」 粒が集まってきらめき、一つの赤い石になった。レイはそれを掌に載せた。
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