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作品名:銀色に燃える月 作者:光石七

第20回   (七)黒の消失A

 ゼグノール・ブラッシュマンは大臣も務めた大物政治家で、「彼こそ真の国民の代表で民衆の味方だ」と高い人気を誇っていた。表舞台からは引退したもののまだ強い影響力を持っており、父の跡を継いで政治家になった息子は将来の首相ではないかと噂されていた。ブラッシュマン一家はカーマインで暮らしているという。
 ラウたちはブラッシュマン邸を訪ねた。かなりの豪邸だ。
「モーヴで人形屋をしているラウと申します。昔ゼグノール様には大変お世話になりました。ゼグノール様のおかげでこうして家族と元気に過ごせています。やっとカーマインまで来れました。ひと目お会いしてお礼を言いたいのですが」
 ラウは門番にこう告げた。門番の一人がラウの来訪を伝えるために屋敷に入った。
「……会ってくれるのか? かなりの大物みたいだけど」
 ヤンが小声で言った。
「大丈夫さ。国民の受けばかり考えてる奴だ。昔世話した人間を手厚く歓迎するなんて、いいパフォーマンスの機会を逃しはしないさ」
 ラウも小声で答えた。ユマはあまりに家が大きくて立派なのであんぐり口を開けている。レイは無表情だった。
 屋敷から門番が戻ってきた。
「お会いになるそうです。失礼ですが、銃や武器の類をお持ちでないか、調べさせていただきます」
「しがない人形屋ですから、そんなもの持ち合わせてませんよ。でも、ゼグノール様も今や国の要人ですからね。ちゃんと調べてください」
 ラウは人のいい老婦人を演じた。全員の持ち物がチェックされた。もちろん危険な物は何もみつからなかった。
「失礼しました。では、こちらへどうぞ」
 ラウたちは中へ案内された。


 通されたのは、立派な応接室だった。ヤンもユマも内装と調度品に目を丸くした。やがてゼグノールが秘書を伴って部屋に入ってきた。
「お久しぶりです、ゼグノール様」
 ラウがにこやかに挨拶した。
「ラウといったか? すまないが、私はよく覚えていないのだ。いつどこで会ったか、詳しく話してほしい」
 ゼグノールは恰幅のいい老人で、今なお精力的に働いていることを感じさせた。
「オーキッドですよ。昔そこに住んでいらっしゃったじゃないですか。本当にお世話になりました。棚を修理してくださったのが最初ですね。それから他にもいろいろ頂いて……。ショールや手作りのオルゴール、そうそう指輪も」
 ラウの言葉に、ゼグノールは怪訝な顔をした。
「そんなことがあったか?」
「ゼグノール様にとっては、大したことではないかもしれません。でも、アタシは四十年間忘れたことはなかった。……自分のお腹に宿っていた命も、レグホーン川の水の冷たさも」
 ゼグノールは目を見開いた。
「まさか……キーラ? キーラ・ブランドル……?」
「覚えていてくれて光栄だね、ゼグ。そうだよ、キーラさ」
 ラウは演技をやめて冷たいまなざしをゼグノールに向けた。
「死んだはずでは……」
「アンタの中ではそうだろうさ。でも、アタシは生きてた。アンタにもう一度会うまでは死ねないからね」
「……四十年も私を想っていたとは、恐ろしい愛情だな」
 ゼグノールが不敵な笑みを浮かべた。
「まだアタシがアンタに未練があると思うのかい? そこまで馬鹿だとは知らなかったよ。自分が何をしたか、よく考えてみな」
「私はこの国のために必死に働いてきた。それだけだ」
「そのためにアタシを川に落として、お腹の子供もろとも消そうとしたのかい? アタシん家を燃やしたのかい?」
 ラウはゼグノールをにらんだ。
「被害妄想はやめろ。……ああ、教育をきちんと受けてないキーラには難しい言葉だったかな。自分は不幸だと思い込んでそれを人のせいにするな、ということだ」
 ゼグノールはラウに侮蔑の言葉を投げかけた。ラウは唇を噛んだ。ヤンはユマの手を握り、ハラハラしながら二人の会話を見守っていた。
「言いたいことを言って、気が済んだか? ――マルセル、客人のお帰りだ。門の外まで連れて行ってやれ」
 秘書がゼグノールの指示を受けてラウに近づいた。レイがラウをかばう。
「レイ! やりな」
 ラウがレイに命令を出した。


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