「髪の色が変わってるだけで普通の赤ん坊だと思った。どういう事情で親が捨てたのかは知らないけどね。ところがおもちゃ代わりにペンダントを与えたら、髪が黒くなるじゃないか。驚いたよ。それで預言のことを思い出したのさ。もしかしたら、この子が『石守り』じゃないかって。いろいろ試して、そうだと確信したんだ。預言どおりにすれば、アタシの望みは叶う。だからその石に人の血を吸わせているのさ。いつかあの男の一族の血も吸わせてやる。もっとも、やみくもにたくさん与えればいいわけじゃないらしいから、とりあえず人様の役に立つ形で相手を選ぶことにしたんだけどね」 詭弁だとヤンは思った。結局ラウは自分のためだけに行動している。 ラウは本を開いた。 「ここにこう書いてあるのさ。
『九百九十九の巡りの後 月は砕け落ちる 闇に光なく 水は怒り狂い 地を飲み込む 留まりしは月のかけら 紅(くれない)のかけらなり
紅は紅を欲す 石守りにかけらを託すべし 頭(こうべ)に銀(しろがね)を纏うがしるしなり かけらは石守りに闇のベールを与え 石守りはかけらを満たす
紅を紅に染めよ 銀を紅に染めよ 紅の月これ銀の月なり 銀の月これ紅の月なり
銀も紅も紅に還し時 闇のベールは消え 汝の望み叶う すなわち世のすべて得るべし』
……なかなかの預言じゃないか。どういういきさつで赤い石がうちにあるのかは知らないけど、これが『月のかけら』だね。銀髪のレイが『石守り』で、『月のかけら』によって『闇のベール』が現れて銀髪が黒髪に隠れる。レイは『月のかけら』を操れる。そしてレイは『月のかけら』を『紅』に染めて、自分も『紅』に染まる。血染めだね。完全に染まりきったら、アタシの復讐は叶ってすべてを手に入れるというわけさ」 ラウは得意げだった。 「そんな馬鹿げた預言のために……」 ヤンは悲しかった。殺すよう依頼した人物がいたこともきっかけだろうが、両親もニナもラウの個人的な欲望のために命を奪われたのだ。そしてレイはラウの命令に従っているだけだ。 「アタシも実際にレイの変化や力を見るまでは信じてなかったよ。でも、ここまで預言にぴったりなんだ。どうせなら、アタシのために役に立ってほしいね」 レイがハーブティーが冷めたことに気付き、新しく淹れ直してきた。ラウはそれを飲んだ。 「これで話は終わりだ。別にアンタがどう思うと構わないさ。ただし、ユマの命が惜しければ妙な真似はしないことだね」 ラウはベッドに横になった。レイが椅子に腰かけて足を組んだ。赤い石はもうしまわれていた。 「……レイさんはそれでいいんですか?」 ヤンはレイに小声で尋ねた。 「何が?」 レイが聞き返す。 「ラウさんに従っても、レイさんには何の得もないじゃないですか。手を汚すだけで……」 「捨て子の私を拾って育ててくれたんだ。恩を返すのは当然だ」 淡々とした口調でレイは言った。 「でも、だからって人殺しをしなくても」 「人殺しが悪いと誰が決めた? 誰だって他の命をもらって生きてるんだ。人間を殺すのだけ悪というのはおかしい」 レイは当然だという顔で答える。ヤンは言葉に詰まった。 懐からニナがくれた懐中時計を取り出す。涙が一粒時計の上に落ちた。
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