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作品名:銀色に燃える月 作者:光石七

第15回   (六)紅の月、銀の月@
(六)紅の月、銀の月


 その夜も小さな宿屋に泊った。ユマは夕食を食べるとすぐに眠ってしまった。やはりエミリーを手放さない。レイがラウにハーブティーを差し出す。ラウはカップに口をつけた。ヤンはユマの傍らで二人をにらみつけていた。
「そんなおっかない顔をすると、二枚目が台無しだよ」
 ラウが余裕の表情でヤンをからかう。ヤンはラウに問い詰めた。
「何のために人を殺すんだ? 罪のない僕の家族をどうして殺した?」
「そりゃ依頼があるからさ」
 ラウはこともなげに言う。
「……確かにレイさんの力を使えば簡単だ。現場さえ見られなければ捕まらないし、いい収入源だろうな」
 嫌味たらしく言ってやった。ヤンの精一杯の抵抗だった。
「金のためだけなら、わざわざ危険な真似はしないさ。他にいくらでも儲ける手立てはある」
 ラウはヤンの嫌味も意に介さなかった。ユマがいる限り自分に刃向かうことはないとわかっているからだ。
「どうだか。イザベル・シャドーまで殺しておいて」
「イザベル・シャドー?」
 ラウは首をかしげた。
「ニナを殺すよう依頼した女の子だ」
「ああ、あの色気づいた小娘かい」
「手にかけておいて、随分な言い様だな」
 ヤンは毒気づいた。
「それはアタシたちじゃないよ。へえ、殺されたのかい」
 ラウは嘘を吐いていないようだった。ヤンは少し驚いた。
「……殺してない?」
「依頼も受けてないし、得することもないさね。……まあ、『紅(くれない)』の足しにはなったかもしれないね」
「『紅』?」
 ヤンがその言葉を聞くのは二度目だった。昨日の昼間にラウとレイが交わしていた会話にも出てきたが……。
「ラウ様、そろそろ休まれては?」
 レイがラウに声をかけた。ラウはヤンを見て含み笑いをしている。
「こいつが腑に落ちない顔をしてるからね。ちょっと話してやろうか」
「こんな奴にわざわざ話さずともいいのでは?」
「ユマのお守のご褒美さ。今更知られたところで困ることもないし、手を貸してもらうこともあるかもしれないじゃないか」
 ラウにとって、ヤンはあくまでも道具らしい。
「しかし、目的を果たす前に邪魔が入っては……」
 レイはまだ案じているようだ。
「こんな荒唐無稽な話、聞いても誰も信じないさ。現実だと気付いた時にはアタシの天下だからね。それに、普通の人間に食い止める力はないだろう?」
 ラウの言葉に、レイは押し黙った。
「ヤンが邪魔になるなら始末するだけさ。それはアンタの役目だ」
 ラウは思わせぶりな笑顔をレイに向けた。ヤンは黙って二人を見ていた。自分だけなら刺し違えても家族の仇をとるところだが、ユマを巻き込みたくない。十五歳で人生を終えたニナの分まで、未来に向かって生きていってほしい。
「さて、少し昔話をしてやるよ」
 ラウはヤンにそう言うと、古ぼけた小さな本を取り出した。
「アタシの先祖は預言者でね。この本にいろんな預言が書いてあるのさ。うちに代々伝わっているのがこの本とあれさ」
 レイはラウの言葉に合わせて、首にかけている赤い石を服の中から引っ張り出した。
「預言といっても怪しげなものばかりでね。アタシも信じてなかった。ちょっと利用してまじない師の真似事をしたことはあったけどね。けれど、ある日男に捨てられた。そいつの子供まで身籠っていたのに、権力者の娘と縁談があるからと別れを切り出された。嫌だと言ったら、真冬の川に投げ込まれた」
 ラウの表情が消えた。
「おかげで子供は流れた。どうにか生きながらえて実家に戻ったけど、今度は火事で家族がみんな死んじまった。……その男の仕業さ。国の役職に就くために、自分の身辺を整理しやがったんだ。『誰もが自由で平等な国に』なんてほざいて、笑わせるよ」
 ラウは険しい目つきをした。
「何とか復讐してやりたかったけど、アタシには何の力もなかった。残った財産はこの本とそのペンダントだけ。売ろうにもタダ同然の値さ。住み込みで人形屋で働いて、技術を身に付けた。そろそろ自分で店を構えようという時、赤ん坊のレイを拾ったのさ」
 ラウはレイを見た。レイは感謝のまなざしを浮かべていた。


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