狙いが定まったのか、赤い粒の動きが一瞬止まった。 「レイ、ちょっと待ちな」 ラウがレイに声をかけた。赤く光る粒たちがふわふわと遊泳する。ラウはユマの後ろ姿をじっと見た。 「アンタ、もしかしてフォークスの嬢ちゃんかい?」 ユマはラウに背を向けたままこっくり頷いた。 「受け取りが遅いと思ってたら……。よりによってこんな日に来るとはね」 ラウはユマを憐れんだ。 「お父さんとお母さんはどうしたんだい?」 「途中でいなくなったの」 ユマが答えた。ラウはしばしの間考え込んでいたが、 「人形はできてるよ。他の人形もアンタにあげようか?」 と言った。 「いいの?」 うれしそうに振り向こうとするユマの頭をヤンはがっしりつかまえた。 「その代わり、アタシたちと一緒においで。そうすればここの人形はみんなアンタの物だ」 「ラウ様、何を……?」 レイが不思議そうに尋ねた。ラウは床の死体を足で蹴とばした。 「こいつらは警官だ。そのうち仲間が来てアタシたちを犯人だと追いかけてくるだろう。殺す許可も下りるかもしれない。でも、人質がいたらうかつに手が出せないだろう?」 「ラウ様……」 「どのみち裏稼業はバレるし、しばらくは逃亡生活さ。切り札があったほうがいい。いたいけな子供を犠牲にするなんて面子が潰れるようなこと、警察はしないだろうさ」 ヤンは信じられなかった。パーシー警部の言うとおり、ラウは根っからのいい人ではなかった。むしろ人の命など何とも思わず、自分のために利用する人間だった。 「では、この男はどうします?」 レイがヤンを指さした。 「さてね。このまま帰せないのは確かだ。人殺しの現場も見られたし、アンタのその姿も力も知られたんだからね。ここで始末するか、一緒に人質にするか……」 「早く決めないと出発が遅れます。荷物になりますし、ここで捨てませんか?」 ラウもレイもただの物のようにヤンの処遇を論じる。自分の命がどうなるかわからないというのに、ヤンはどこか現実味がなかった。 「それもそうだね。この子だけ連れて行こうか」 ラウはユマに手を触れた。 「お人形持って、一緒にきれいな町に行こう」 「……パパとママも行くの?」 ユマは不安そうな声でラウに尋ねた。ヤンが強くつかまえているため、ラウのほうを向くことができない。 「そうだよ。さっきはぐれたのは、先にそこに向かったからさ」 偽物の笑顔で堂々と嘘を吐くラウを、ヤンは苦々しく思った。しかし、声を出せない。 「じゃあ、お兄ちゃんもパパとママのところまでついてきて」 ユマがヤンの服を引っ張った。ラウとレイはヤンの顔をみつめた。どうするか考えているようだ。 「ヤン、アンタ金持ってるかい?」 ラウがヤンに聞いた。 「……少しは」 ヤンの答えを聞き、ラウは決断した。 「アンタはこの子のお守だ。自分の食いぶちは自分の金でなんとかしな。逃げようとか変な真似するんじゃないよ。アンタだけでなくこの子も殺すからね」 ヤンに選択の余地などなかった。 レイは赤い粒をペンダントに戻し、首にかけた。銀髪が少しずつ黒くなっていく。ラウとレイは簡単に荷物をまとめて薄紫のローブを纏い、ヤンとユマを連れて一階に降りた。ラウはユマの人形エミリーをユマに渡した。ユマに似た亜麻色の髪と青い瞳の人形だった。 「お父さんとお母さんが待ってるし、他の人形は後で取りに来ようね」 ユマの前ではラウはあくまでも人がいい老婦人だ。ユマはエミリーを愛おしそうに抱きしめた。 応援の警官が仲間たちの死体を発見したのは、ラウたちが出発してから二時間後のことだった。
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