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作品名:銀色に燃える月 作者:光石七

第11回   (五)銀髪の死神@
(五)銀髪の死神


 ヤンの言葉が信じられなかったのか、パーシー警部は師匠にヤンの監視を頼んだようだった。無断で仕事を休むことは許さなかったし、仕事が終わっても本当にまっすぐ帰宅するのか念を押してくる。もともと厳しい師匠だが、必要以上にプライバシーに干渉するタイプではない。詳しい事情までは知らないとしても、何かしらパーシー警部から話を聞いたとしか思えない。仕事の時間を削らなければモーヴまで行けないし、師匠に逆らうこともできない。ヤンは大人しく従うしかなかった。もっとも、仕事に穴を空けてまでラウの店に行こうとは思わなかったが。
 町はずれでの仕事が入り、ヤンは師匠と仲間とともにそこに向かった。隣町モーヴとの境目ぎりぎりの場所だ。
「仕事をサボってモーヴに行くなよ」
 師匠はヤンに釘を刺した。
「そんなに信用ないですか」
 ヤンはぼやいた。仲間たちは笑っている。無理に仕事を抜けるつもりはないが、少し期待したのも事実だ。ヤンは甘い考えを振り払い、仕事に集中することにした。
 休憩をとっていると、道の向こうで女の子がしゃがみこんでいるのに気付いた。
「どうしたの?」
 ヤンは近づいて声をかけた。
「……っく、んっく……。ママ……。パパ……」
 女の子は泣いていた。
「迷子か。どこから来たの?」
「……アンバー」
 アンバーはこの町ともモーヴとも隣接している村だ。ヤンは女の子の頭を撫でてやった。亜麻色の髪で、小さい頃のニナみたいだ。
「パパとママは? 一緒じゃないの?」
「……一緒に来たのに。……ひっく……」
 どうやら途中で両親と離れ離れになってしまったようだ。
「おうちに帰るところ?」
「ううん。……お人形屋さん、行くの」
 女の子が顔を上げた。ニナと同じ青い瞳。ヤンは放っておけなくなった。
「何てお店かわかる?」
「『月のかけら』。……エミリーが待ってるの」
 ヤンは驚いた。ラウの店だ。
「そこに行けば、パパやママもいるかな?」
「うん。……一緒に、エミリーを取りに行こうって……」
 ヤンは大体の事情を察した。ラウに注文した人形を受け取りに行く途中で、両親とはぐれてしまったのだろう。両親も女の子を探しているだろうし、ラウの店の近くに行けば会えるかもしれない。警察に保護を頼むとしても、ここからならモーヴの町のほうが近い。
「お兄ちゃんが連れてってあげるよ」
「……ほんと?」
 女の子は泣くのをやめてヤンをみつめた。
「うん。ちょっと待ってて」
 ヤンはもう一度女の子の頭を撫で、師匠に歩み寄った。
「あの子が迷子なんです。近くに両親がいるようなので、一緒に探してきます。もし見当たらなければ警察に預けるので。すぐに帰ってきます」
 師匠は女の子のほうを見た。ニナと似ていることを察したらしい。
「仕方ないな。すぐ戻れよ」
「はい」
 ヤンは女の子の手を引いてモーヴに向かった。


「僕はヤンっていうんだ。君は何て名前?」
 道を歩きながらヤンは女の子に尋ねた。
「ユマ。ユマ・フォークス」
「いい名前だね。お人形のエミリーはユマが付けた名前なのかな?」
「うん。ユマのお友達になるの」
 もともとヤンは子供に好かれやすい。ユマもヤンに気を許したようだった。
 モーヴの町に入り、通行人に警察署の場所を尋ねた。近ければラウの店に寄らずにユマを預けてもいい。だが、警察署はラウの店よりももう少し先にあるようだった。
「とりあえず『月のかけら』に行こうか。そこにパパやママがいなかったら、お巡りさんに探してもらおう」
「うん。早くエミリーに会いたい」
 ユマは六歳くらいだろうか。両親とはぐれて心細さもあるだろうが、新しい人形に期待を募らせる子供らしさが微笑ましかった。
「ユマ、疲れてないか? おんぶしようか?」
 子供の頃、よくニナをおぶってやったものだ。
「大丈夫。お兄ちゃんより若いもん」
 ユマの返答にヤンは吹き出してしまった。


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