| 
| 『黒ずきん』 
 
 むかしむかし、あるところにかわいい女の子が住んでいました。いつも黒いずきんをかぶっているので、みんなから「黒ずきん」と呼ばれていました。
 ある日、お母さんが黒ずきんに言いました。
 「おばあさんのところに行ってほしいの」
 おばあさんは森の奥に住んでいます。最近体が弱ってきたと話しており、しばらく姿を見せなかったので、お母さんも黒ずきんも心配していました。
 「これを渡してあげて」
 お母さんからバスケットを受け取り、黒ずきんはおばあさんのところへ向かいました。
 森に入ると、きれいな花がたくさん咲いていました。黒ずきんはおばあさんのために花を摘むことにしました。
 「きっとおばあさんも喜ぶわ」
 そんな黒ずきんの様子を見ていた者がいました。オオカミです。バスケットを持っているところを見ると、お見舞いに違いありません。オオカミはおばあさんの家に先回りすることにしました
 おばあさんを先に食べようと思っていましたが、おばあさんは部屋にいませんでした。オオカミはおばあさんの服と帽子を引っ張り出し、それを身に付けておばあさんのベッドにもぐりこみました。
 黒ずきんが訪ねてきました。
 「おばあさん、体は大丈夫?」
 「ええ、心配かけてごめんなさい」
 オオカミはなるべくおばあさんの声に似せて答えました。
 「声が変だけど、風邪気味なの?」
 「少しだけ」
 「無理しないでね」
 黒ずきんが自分をおばあさんだと思い込んでいるようなので、オオカミは安心しました。
 「おばあさんの耳は、どうしてそんなに大きいの?」
 「お前の声がよく聞こえるようにさ」
 「おばあさんの目は、どうしてそんなに大きいの?」
 「お前をよく見るためさ」
 「おばあさんの口は、どうしてそんなに大きいの?」
 「それは……お前を食べるためさ!」
 オオカミは起き上がり、口を開けて黒ずきんに飛びかかろうとしました。すると、黒ずきんはオオカミの口に何かを放り込みました。オオカミはそれを飲み込んでしまいました。
 「うっ、喉が熱い……。何だ、これ?」
 「即効性の毒よ。私が騙されると思った?」
 黒ずきんは妖しげな微笑みを浮かべました。
 「毒!?」
 「そう。すぐにあなたは死ぬわ」
 「そんな……あ、ぐっ……ぎゃあぁ……!」
 オオカミは死んでしまいました。
 「黒ずきん、来たのかい?」
 隣の倉庫にいたおばあさんが顔を出しました。
 「あ、おばあさん。これ、お母さんから」
 黒ずきんはお母さんから預かったバスケットを渡しました。
 「トカゲの干物に、ブタの心臓、スズと鉛、ブードゥー人形……。さすがはあの子だね」
 「トリカブトが咲いてたから、摘んできたわ」
 「ありがとう。あとは黒犬の血があれば完璧なんだけどね……」
 「あれじゃダメ? 一応イヌ科だけど」
 黒ずきんはベッドの上で絶命したオオカミを指さしました。
 「毛は黒いけどね……」
 「やっぱり効果はない?」
 「多分ね。儀式は厳格だから。まだ普通の犬のほうがましだね」
 「じゃあ、取ってくるわ」
 黒ずきんはおばあさんの家を出ました。おばあさんは眼鏡をかけ、魔術書の続きを読み始めました。
 
 |  |