『裏島太郎』
ある村に太郎という名の漁師がいた。太郎が浜辺を歩いていると、子供たちがカメをいじめていた。 「こら! かわいそうだろ。もう放してあげなさい」 太郎が叱ると、子供たちは逃げていった。カメが太郎にお礼を言った。 「危ないところを助けてくださり、ありがとうございます。お礼に竜宮城に招待します」 「いや、いいよ。俺も仕事があるし」 「それでは私の気がすみません。楽しいところですから、ぜひいらしてください」 カメが強く勧めるので、太郎はカメの背に乗って海に入り、竜宮城へ向かった。 入口の近くでカメは太郎を下ろした。 「亀田の友達といえばわかります。存分に楽しんでください」 「君は行かないのか?」 「私は用事があるので。帰りにまた迎えに来ます」 太郎はカメと別れた。 竜宮城に入ると、きれいな女の子がたくさんいた。 「亀田の友達ですけど……」 「亀田様の? お待ちしておりました。どうぞ」 太郎はVIP席に連れて行かれた。 「どんどん召し上がってください」 酒や料理が次々と出される。中には太郎が口にしたことがない、高級な食材や洋酒もあった。周りは美女だらけだ。中でも、乙姫という子は格別だった。太郎はすっかりいい気持ちになった。 時間を忘れて過ごしていたが、やはり仕事がある。 「もう帰らないと」 太郎が立ち上がると、乙姫が請求書を持ってきた。 「ありがとうございました。亀田様の分まで含めて、145万8000円になります」 「……え?」 「亀田様の友人の、お金持ちの方ですよね?」 「……違いますけど」 太郎の言葉に、乙姫たちの態度が一変した。 「兄ちゃん、なめとんのか!」 「亀田のボケが、金持ちの友人を連れてくるから、楽しませて全部請求しろって言ったんじゃ! うちらを騙す気か!?」 「そっちがその気なら、こっちにも考えがあるで」 ――道理でカメが太郎を残して帰ったはずだ。 太郎は一年ほど竜宮城でただ働きをする羽目になった。
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