20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:どこかで聞いたおはなし 作者:光石七

第2回   裏島太郎
『裏島太郎』


 ある村に太郎という名の漁師がいた。太郎が浜辺を歩いていると、子供たちがカメをいじめていた。
「こら! かわいそうだろ。もう放してあげなさい」
 太郎が叱ると、子供たちは逃げていった。カメが太郎にお礼を言った。
「危ないところを助けてくださり、ありがとうございます。お礼に竜宮城に招待します」
「いや、いいよ。俺も仕事があるし」
「それでは私の気がすみません。楽しいところですから、ぜひいらしてください」
 カメが強く勧めるので、太郎はカメの背に乗って海に入り、竜宮城へ向かった。
 入口の近くでカメは太郎を下ろした。
「亀田の友達といえばわかります。存分に楽しんでください」
「君は行かないのか?」
「私は用事があるので。帰りにまた迎えに来ます」
 太郎はカメと別れた。
 竜宮城に入ると、きれいな女の子がたくさんいた。
「亀田の友達ですけど……」
「亀田様の? お待ちしておりました。どうぞ」
 太郎はVIP席に連れて行かれた。
「どんどん召し上がってください」
 酒や料理が次々と出される。中には太郎が口にしたことがない、高級な食材や洋酒もあった。周りは美女だらけだ。中でも、乙姫という子は格別だった。太郎はすっかりいい気持ちになった。
 時間を忘れて過ごしていたが、やはり仕事がある。
「もう帰らないと」
 太郎が立ち上がると、乙姫が請求書を持ってきた。
「ありがとうございました。亀田様の分まで含めて、145万8000円になります」
「……え?」
「亀田様の友人の、お金持ちの方ですよね?」
「……違いますけど」
 太郎の言葉に、乙姫たちの態度が一変した。
「兄ちゃん、なめとんのか!」
「亀田のボケが、金持ちの友人を連れてくるから、楽しませて全部請求しろって言ったんじゃ! うちらを騙す気か!?」
「そっちがその気なら、こっちにも考えがあるで」
 ――道理でカメが太郎を残して帰ったはずだ。
 太郎は一年ほど竜宮城でただ働きをする羽目になった。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 739