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作品名:アルフレッドの憂鬱 作者:光石七

第9回   (六)星たちの歌
(六)星たちの歌


「どうして私がそんな面倒臭いことに付き合わなきゃいけないの?」
 予想はしてたけど、姉様は不機嫌にそう言った。
「僕も姉様の手を煩わせたくなかったんですけど……。ピアノの助っ人をお願いできるのは、姉様しかいないんです」
「そもそも決闘って男同士がするものでしょ? なんで女を巻き込むのよ」
「ごめんなさい。……でも、普通の決闘と違って音楽で勝負するし……」
「一対一の真剣勝負でしょ? アル、それでも男なの?」
 姉様の言葉が胸に突き刺さる。
「……でも、僕……ピアノはちょっとだけしか……」
「練習すればいいでしょ」
「相手はプロの音楽家ですよ?」
「技術でかなわなければ、ハートで勝負しなさいよ」
 姉様はつれなかった。仕方ない。負けを覚悟で演奏しよう。
 姉様とは違い、僕はピアノが苦手だった。姉様より先にさっさとやめた。簡単な曲を姉様に教わって遊び半分に弾いたくらいで、専ら聴く側だ。まだ剣の勝負のほうが勝てる希望がある。嫌々受けた決闘とはいえ、できればやはり勝ちたい。グレイヴィル家の名誉もある。だから姉様に助っ人を頼んだのだが……。
 優劣の判定は、レッドフォードのお祖父様とお祖母様、ミランダ伯母様、お祖父様、母様にお願いすることにした。当日はミシェルがレジーをうちに連れてくる。レオニードも参席したがったが、近衛隊の訓練があるということだった。
 僕は久しぶりにピアノに向かい、練習を始めた。


 決闘前日。お祖父様も両親もにこにこして夕食の席に着いた。
「明日は楽しみですね」
「ああ。決闘といっても誰も傷つかないし、風情があっていいね」
「俺も休んで見物したいくらいです」
 みんな暢気なものだ。人の気も知らないで……。
「アルは何を弾くんですか?」
「『星たちの歌』です」
 母様の質問に答えたが、姉様が厳しい目を向けた。
「小っちゃい子の練習曲じゃない。それで勝つつもりなの?」
「……でも……それしか弾けないし……」
「呆れた。初めから受けなきゃよかったのに」
 そう言われても……。断ろうにも断れなかったのだ。
「そもそもレジーが姉様を侮辱しなかったら、こんなことにはならなかったんです」
「聞き流すくらいの度量を持ちなさいよ」
 ……ごもっとも。でも、姉様を悪く言われるのは我慢できない。
「ユリア、アルを責めてはいけません。これも一つの経験です。アルが大きく成長するチャンスですよ」
 母様が笑顔でとりなしてくれた。
「そうだね。留学帰りの若者がどんな演奏をするかも楽しみだし」
 お祖父様も微笑んでいる。
「専門はバイオリンなんだろ? そっちも聴いてみたいな」
「トーマは仕事じゃないですか」
「明日をきっかけに友達になればいいじゃないか。最初にけんかした奴ほど、後の結びつきは強いからな。俺もそうだった」
「セイラなんか妻になってるしね」
 大人三人で盛り上がっている。
「お祖父様もお父様も、よくこんな馬鹿馬鹿しい決闘を許したわね」
 姉様が呆れ顔で言った。
「まあ、名前を笑われたくらいで、アルみたいな子供に本気で決闘を申し込む男も馬鹿だと思うけど」
「……ですよね」
「一応私も見届けてあげるわ。恥ずかしい演奏はしないでね」
 姉様に釘を刺されてしまった。
「……全力で頑張ります」
 こう答えるのが精一杯だった。


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