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作品名:アルフレッドの憂鬱 作者:光石七

第7回   (五)僕にもちゃんと友達がいます
(五)僕にもちゃんと友達がいます


 数日後、僕はレオニードと一緒にミシェルの屋敷に泊まった。ミシェルとは同い年で、レオニードは二つ上だ。二人の父君が父様の仕事仲間だったのが縁で、僕らは小さい頃から一緒に遊んでいる。しょっちゅう屋敷を行き来していたが、レオニードが近衛隊に仮入隊したのをきっかけに、三人で集まる機会が減った。それでも二か月に一度、誰かの屋敷に泊まる習わしは続いている。
 夕食を頂き、カードゲームで遊んだ。ミシェルの部屋にベッドを用意してもらった。
「アルはいいよな。美人に囲まれて暮らしてさ」
 レオニードが言った。レオニードは男兄弟ばかりだ。
「そうそう。母君もきれいでかわいいし、ユリアさんに至っては言葉がない。僕もあんな姉様がほしかった」
 ミシェルも同意する。ミシェルは一人っ子で、少し甘えん坊なところがある。
「今度はアルの番だからな。楽しみにしてるぞ」
「あのブルーローズと同じ館で過ごせるなんて、アルと友達でよかった」
 ブルーローズとは姉様のあだ名だ。姉様に相手にされない男たちが陰でそう呼んでいる。存在自体が奇跡、決して誰の手にも触れない青いバラ。その身をトゲで守っているのも姉様と重なるらしい。
「言っておくけど、姉様に変な真似をしたら絶交だからな」
 僕は忠告した。
「わかってるって。でも、あの美しさに心を奪われない男はいないよ。ひと目見たら目を離せなくなるって」
「そうだよ。緊張のあまり固まるか、顔が緩みっぱなしになるか、どちらかだな」
「……そうじゃない奴がいたよ」
 僕はふと思い出して苦々しい気持ちになった。
「誰?」
「そいつ、本当に男?」
 二人が身を乗り出してくる。
「名前は知らないけど……。この間、ミランダ伯母様の個展で姉様にぶつかった奴。面倒臭そうに『どうも』って言っただけで立ち去りやがった」
「ユリアさんによくも……」
「無礼な奴だな」
 ミシェルもレオニードも憤った。
「どこのどいつだ。みつけたらただじゃおかない」
「……君ら顔も知らないだろ」
 友達の高揚が、逆に僕を冷静にしていく。
「でも、ユリアさんに何かあったら……」
「そうだ。いくら両親が腕が立つといっても、いつもユリアさんを守れるわけじゃない」
「だから僕が強くなって守るって」
 僕はあの誓いを忘れていない。
 僕が三歳の時、屋敷に二人組の強盗が入った。お祖父様も父様も領地に出かけて留守だった。強盗はそれを知って日にちを選んだのだ。夜中にナイフと銃で僕たちを脅して一か所に集め、金品を物色した。でも、強盗たちには一つ誤算があった。母様を普通のか弱い女性だと思い込んでいたことだ。母様はこっそり姉様と僕をハンナに託し、隠し持っていた短剣と拳銃を手に強盗に立ち向かった。優秀な護衛だった母様だ。あっという間に見張りの強盗に手錠をかけ、もう一人も拳銃で威嚇して捕まえてしまった。
 ……あれ? どうして母様は手錠なんか持っていたのだろう? 短剣と拳銃はわかる。護衛時代の名残でいつも持ち歩いてるし、休む時も手の届くところに置いている。でも手錠は? 昔は使っていたかもしれないけれど……。父様の物だとしても、寝室に置いておくものじゃない。夜に使う? ……まさか……愛を確かめ合う時の……?
 ――話を元に戻そう。母様の活躍でみんな無事だったけれど、僕は怖くてずっと震えていた。そんな僕を姉様はぎゅっと抱きしめてくれていた。強盗たちが警察に引き渡された時、姉様は母様にしがみついて泣きじゃくった。姉様も本当は怖かったのだ。それなのに僕を……。その時僕は誓った。大きくなったら絶対姉様を守ろうと。
「決意は立派だけど、実力が伴ってないじゃん」
 レオニードは遠慮がない。それがいいところでもあるけれど。
「レオニードよりは強いつもりだけど?」
「言ったな、チビのくせに」
「僕らはこれから伸びるんだもんな、ミシェル」
「そうそう。レオはもう成長期は終わりだろ?」
「まだ終わってない!」
 他愛無い会話が楽しい。眠るまで僕たちは話し続けた。


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