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作品名:アルフレッドの憂鬱 作者:光石七

第4回   (二)シスコンですが、何か?A

 父様と母様は少し遅くに帰宅した。
「先に帰るなら、ちゃんと言ってくれ。年頃の娘が夜出歩くなんて危ない」
 父様が小言を言った。
「アルが一緒なんですから、大丈夫ですよ」
 母様がとりなしてくれる。
「私も夜一人で帰ってましたし」
「最初だけだろ? 俺が送ってやってた」
「え、私を守るためだったんですか?」
「当然だ」
「てっきり、一緒にいたかったんだと思ってました」
「それもあるけど、お前に何かあったら困るだろ」
「……やっぱりトーマはナイトですね」
「お前専属のな」
「……!」
 ――またですか、この夫婦は。
「いちゃつくのは自分たちの部屋でやってよ」
 姉様は自室にこもってしまった。僕は父様に話があると言った。それを聞いて、母様も寝室へ向かった。


 僕は父様に今夜の姉様の様子を報告した。僕自身もそうだが、父様も姉様に変な虫がつかないか心配している。誰も相手にしていなかったと聞き、父様はほっとしたようだった。
「小さい頃からかわいかったからな。年頃になったら大変だと案じていたけど、案の定だ」
「母様ももてたんですか?」
「ああ。ユリアは自覚があるからまだいい。セイラは全く自覚なかったからな。どれだけ無防備で、俺をハラハラさせたか……」
「父様は本当に母様一筋ですね。浮気なんて考えられない」
「……」
 あれ? 何故ここで父様が黙るんだ? あれだけ仲がいいのに。不思議に思ったが、今は姉様のことだ。
「ユリア姉様には、最高の幸せを用意して差し上げたいですね」
「その通りだ」
「そこいらの男じゃ駄目です」
「もちろん。俺が認めた男じゃないと任せられない」
「どこかで聞いた台詞だね」
 いつのまにか、お祖父様がいた。
「私からセイラを奪っておいて、それはないんじゃないかい?」
「……義父上、いつからそこに?」
「ついさっきだよ。『最高の幸せを……』あたりからかな」
 父様は妙にほっとした感じだった。
「でも、お祖父様もユリア姉様の幸せを願ってますよね?」
「それは当然だよ。でも、ユリアの気持ちが第一だしね。セイラは色恋に疎くて異性を意識してなかったけれど、ユリアはちょっと違う気がする。どうしてあそこまでツンケンするのかな?」
「姉様に釣り合う男はいませんから、姉様の態度は正しいんです。だから僕が姉様を守るんです」
 お祖父様は苦笑した。
「変な虫から守るのはいいけど……。ユリアの幸せを邪魔するのは本末転倒だからね」
「ご自分の経験から、ですか?」
 父様が意味ありげな視線をお祖父様に送る。お祖父様が咳払いした。
「私もさすがに年だからね。生きているうちに孫の結婚式を見たいんだ」
「結婚が必ずしも幸せとは限りません」
 僕は声を張り上げた。
「それも一理あるけど……。アルもいつかは素敵な女性と結婚するんだろう?」
 お祖父様が僕に尋ねたが、僕は断言した。
「姉様より素敵な女性なんていません」
 お祖父様と父様が顔を見合わせる。
「……かわいい女の子は宮廷にいっぱいいるじゃないか」
「姉様には負けます」
「気になる子はいないのかい?」
「いません。ユリア姉様に比べたら、みんなカボチャです」
「でも、自分の姉とは結婚できないよ?」
「わかってます。だから僕は結婚するにしても、最低条件として、姉様を大事にしてくれる人を選びます」
「……」
 お祖父様も父様も黙ってしまった。
「姉様を幸せにできる男がいない以上、僕が姉様を幸せにします」
「……美しすぎる姉を持つのも考え物だね」
 お祖父様が声を絞り出した。
「僕はユリア姉様の弟で幸せです。姉様を守って幸せにできれば、僕は満足です」
「……兄弟の仲がいいのは結構だが。アルも姉離れしないとな」
「父様が僕に姉様を頼むとおっしゃったんじゃないですか。僕は長男で跡取りです。家族を守り、幸せにする責任があります」
「間違ってはいないんだけれど……。どこかずれてるね」
 お祖父様も父様も渋い顔だ。
「姉を大切にして何が悪いんですか? 僕はまだ子供で力もないから、一生懸命努力してるんです! お祖父様も父様も母様が大事で、母様を守るために努力したんでしょう?」
 二人のウィークポイントを突いてやった。
「それはそうだけど……」
「俺とセイラの関係とはなんか違うような……」
 そこへメイドのハンナが顔を出した。
「アルフレッド様、もうお休みの時刻でございます。旦那様も若旦那様もお疲れではございませんか?」
「じゃあ、僕は休みます。お祖父様、父様、お休みなさい。父様、母様が待ってますよ?」
 僕は二人を残してさっさと自室に引き上げた。


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