姉様とレジーのダンスをみつめていたら、目のくりっとした女の子が僕に声をかけてきた。 「あの、アルフレッド様。私と踊ってください」 「……え?」 女の子から誘われたのは初めてだ。 「お手紙を出したんですけど、覚えてませんか? モートン男爵の娘で、ジャクリーヌ・モートンといいます」 「えーっと……」 手紙は何通か来ていた気がするけれど、姉様のことで頭がいっぱいだったから……。 「アルフレッド様は覚えてないかもしれませんが、ミランダ・レッドフォードの個展で出会った時からあなたのことが忘れられなくて……」 「ミランダ伯母様の個展で?」 「はい。ぶつかりましたよね?」 ――レジーの前に僕にぶつかった女の子か。 「それだけで僕を?」 「アルフレッド様のお顔を見て、運命だと思ったんです。この人が私の王子様だって」 「お、王子様って……。ジャクリーヌ……だっけ?」 「ジャクリーヌ・モートンです。ジャッキーと呼んでください」 「……ジャッキー。僕は王子様なんかじゃない。ぶつかったくらいで運命と言われても……」 「私がそう思ったのだから、運命ですわ」 「……」 どう返答したらいいのかわからない。ミシェルもレオニードも呆気にとられている。 「女の子から勇気を出してるんですよ? 断らないでくださいね」 「……そう言われても。君のことよく知らないし……」 「これから知っていけばいいじゃないですか。まずはダンスの相手をお願いします」 強引に腕を取られ、僕はジャッキーと一曲踊る羽目になった。 「やっぱりアルフレッド様はかわいいですね。母性本能をくすぐられます」 褒められているのかけなされているのか、よくわからない。 「アルフレッド様、これからよろしくお願いしますね」 ようやく解放された。 「結構かわいいじゃん」 「そう言うならレオが相手しろよ」 「アルをご指名だったからね。僕らの出る幕じゃないよ。でも、ユリアさんにちょっと似てるかも」 「どこが?」 話していると、二人の男性がつかつかと歩いてきた。背の低いほうが忌々しそうに僕に尋ねた。 「貴様がアルフレッド・グレイヴィルか」 「ジェフ・モートン中尉にジョニー・モートン少尉……」 レオニードが声を上げた。 「俺は貴様のような軟弱な奴が弟とは認めない」 「……は?」 「ジョニー、落ち着け。ジャッキーの気持ちを大事にしろ。――突然すまない。僕たちはジャッキーの兄だ。僕がジェフで、こいつがジョニー。妹を思う気持ちは誰にも負けないつもりだ」 「兄さん、だからジャッキーにはもっと頼りがいのあるやつを……」 「ジャッキーが選んだんだ。僕はジャッキーの選択を信じる。でも、ジャッキーを泣かせたら許さない」 ――二人してシスコン? それも微妙にタイプが違う……。 「泣かせるも何も……。僕はまだ彼女のことを全然知らないんですよ?」 「さっき一緒に踊ってたじゃないか」 「女の子に恥をかかせるわけにはいかないから、相手をしただけで……」 「ジャッキーのどこが気に入らないんだ? あんなにかわいい子はいないぞ?」 「他にも強い男はいるのに、わざわざジャッキーが軟弱な貴様に声をかけたんだ。何様のつもりだ?」 ――どう答えればいいんだ? 僕は助けを求めてミシェルとレオニードのほうを見た。 「近衛隊で会ったけど、二人ともかなりの剣の使い手だ。怒らせると怖いし、敵に回すと厄介だぞ」 レオニードが耳打ちしてくれた。 「……確かにかわいいですね」 仕方なくそう言った。まあ、意志の強そうなところとか、姉様に通じるものがあるかな。 「そうだろう? ジャッキーを頼むぞ」 「やっぱりそういう目で見てたんじゃないか。よこしまな奴にはジャッキーは渡せない」 「ジョニー、そう言うなって」 「兄さんは甘すぎる」 ――シスコンって面倒臭い。どう転んでも締め上げられそうだ。 ミシェルとレオニードは少しずつ僕から離れ始めた。自分たちだけ逃げる気だな。 「この二人も、ジャッキーをかわいいって言ってましたよ」 二人を指さしてやった。 「ち、違います。確かにきれいだけど、アルに譲ります」 「僕もアルとジャクリーヌ嬢を応援しますから」 慌てるレオニードとミシェル。 「貴様らもジャッキーをよこしまな目で見てたのか!」 「頼もしい仲間じゃないか。ぜひ二人の仲を取り持ってくれ」 「ミシェル! レオ! 僕を裏切らないで!」 ――僕に平穏な日が訪れるのはいつだろう……。 姉様は僕の様子など全く気付かないまま、幸せそうにレジーと踊っていた。
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