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作品名:アルフレッドの憂鬱 作者:光石七

第3回   (二)シスコンですが、何か?
(二)シスコンですが、何か?


 隣国の新大臣を迎えての晩餐会。僕たち家族は正装して出席した。両親は友人と談笑している。僕は姉様のそばにぴったり張り付いていた。
「ユリア!」
 ――来た。王子アレン様だ。
「今日は一段と美しい。ぜひ、ダンスの相手をお願いする」
「お断りします」
 姉様は相手が王子だろうが、きっぱりとはねつける。
「一度くらい、私と踊ってもらえないか?」
「嫌です」
「ムージアンに、ユリアのために曲を書いてくれるよう、頼んでみるから」
「結構です」
「ユリア姉様は、僕と踊るんです」
 僕は二人の間に割り込んだ。
「……アル。その身長じゃ釣り合わないぞ?」
 痛いところを突かれた。だが、姉様のために引くわけにいかない。
「まだ成長途上ですから。そのうち、アレン様を追い越しますよ」
「今はチビだろうが」
「心は立派な紳士です!」
 そう。僕は紳士で、姉様のナイトだ。
「同じ踊るなら、アルが相手のほうがましですわ」
 ……微妙な言い方だが、僕を選んでくれたのはうれしい。アレン様の顔が曇った。
「こんなにお前を思ってるのに……。ユリアの母君は父上を振ったらしいが、私は同じ道を歩むつもりはない」
 これも宮廷では有名な話だ。ルチア様の護衛をしていた母様を、当時まだ王子だったルーファス陛下が見初め、求愛したという。相手をよく知るために一時交際したが、結局母様は父様を選び、父様も母様を愛していたため、陛下は潔く身を引いたらしい。
「陛下の潔さを見習ってはいかがですか? 引き際も肝心ですよ」
 僕はアレン様に言ってやった。
「身を引くのは一見かっこいいようだが、ただの諦めだ。男なら、どんなにかっこ悪くてもみじめでも諦めてはならない」
 アレン様も手強い。確かに頷ける意見だ。
「では、そこであがいてくださいませ。私はもう行きますので」
 姉様が方向を変えて歩き出したので、僕は慌てて後を追いかけた。歩く中でも、姉様に多くの視線が集まる。もちろん、男たちからのだ。僕はキッと睨み返す。
「ムージアンの演奏が終わったら、さっさと帰りましょ」
「はい、姉様」
 目立たないよう、広間の隅のほうに行った。そこへ従兄のテディ・レッドフォードがやってきた。
「ユリア、久しぶり」
「テディ兄様、姉様に気安く話しかけないでください」
 僕は抗議してやった。
「従妹と話しちゃいけないのか? アル、度量の狭い男は嫌われるぞ」
「テディ兄様は、ただの従妹と思ってないくせに」
「もちろん。ユリア以上の女性はいないからな。――本当にきれいだ。空の星をすべて合わせても、今夜の君の美しさにはかなわない」
 気障な台詞で姉様を褒め称える。
「テディ、お星さまになりたいの?」
 姉様は不機嫌そうだ。
「それはごめんだ。星になったら、夜しか君に会えない」
「私は永遠に会いたくないけど」
「姉様、二度と会わないよう、谷底に突き落としましょうか?」
「そうね。お願いするわ」
「……ひどすぎない?」
 テディ兄様は大げさに落ち込んだふりをする。
「そんな演技に騙されませんよ」
 僕は釘を刺した。テディ兄様は昔から女性にもてる。女性がどうすれば喜ぶかも心得ている。父様曰く、父様の兄であるパウル伯父様の血だそうだが……。僕はミランダ伯母様と仲がいい姿しか知らないので、よくわからない。しかし、姉様は他の女性と違い、簡単には靡かない。
「テディは役者になったら? 向いてると思うわ。気が向いたらいつか観劇に行くから」
「……それって、一生来ないってことじゃ……」
「よくわかったわね。空っぽかと思ってたけど、意外に頭いいんだ」
 姉様は毒舌でテディ兄様を攻撃する。
 ムージアンが広間に現れた。
「ユリア姉様、始まりますよ」
 姉様は楽団のほうを見た。さっきまでとは違い、頬を紅潮させて楽しそうだ。美しい旋律が奏でられると、うっとりとしている。外は月夜、まるで月の女神がそこにいるようだ。
「……こういう顔を、僕の前でも見せてくれたらいいのに」
 テディ兄様が小声で呟いた。姉様は僕の前でもなかなかこういう表情はしてくれないけれど。
 音楽が終わると、姉様は笑顔で拍手を送った。僕も一緒に拍手する。ムージアンが一礼して退出した。
「さ、帰りましょ」
 姉様はいつもの顔に戻り、僕の手をつかんで歩き出した。


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