晩餐会当日。美しい姉様に多くの視線が集まるのはいつものことだった。僕は姉様のそばについていた。 「ユリア!」 やはり真っ先に声をかけてくるのはアレン様だ。 「今日こそダンスの相手を……」 「姉様には先約がいます」 僕はアレン様の申し込みを遮った。 「どうせアルだろう?」 「違います。姉様の恋人です」 アレン様が固まった。 「……いつのまに……。誰だ?」 「後でご紹介しますわ」 恥ずかしがりながらも、姉様ははっきり言った。固まっているアレン様を残し、僕は姉様について歩き出した。 次にやってくるのはテディ兄様だ。もちろん他の男たちも姉様を狙っているのだが、アレン様を差し置いて声をかけることはできないし、従兄という特権を利用して話ができるテディ兄様も優位らしい。 「今夜の君は花そのものだね。僕が摘んでもいい?」 「駄目に決まってるでしょ」 姉様は即答した。 「テディ兄様。花を盗んだだけで死罪になった男の話を知ってますか?」 でまかせだったけれど、テディ兄様はぎょっとした顔になった。 「ああ、あの話ね。悲惨な結末だったわね」 姉様も調子を合わせる。 「テディ兄様も同じ目に遭わせますか?」 「それはいい考えだわ」 「……なんか、兄弟仲がすごくよくなってない?」 「もともとよ。ね、アル」 「そうですね、姉様」 テディ兄様がふくれっ面になった。 「……ユリアにいい人ができたって噂が立ち始めてるけど」 「噂じゃなくて事実です、テディ兄様」 テディ兄様が目を見開いた。 「嘘だ……。僕という婚約者がありながら……」 「テディと婚約した覚えはないけど」 「五歳の時、結婚の約束をしたじゃないか」 「全然覚えてないわ」 レジーが姉様に向かって歩いてきた。 「遅れてすまない。楽団に休みの件が伝わってなかったみたいで、ちょっと手間取った」 「レジー、紹介するわ。従兄のテディ・レッドフォード。ミランダ伯母様の息子よ」 レジーはテディを見た。 「母君の個展に行った。素晴らしい絵だと思う。俺はレジーナ・エンドルフィ。レジーでいい。楽団でバイオリンを弾いてる。今日は休みだけど」 「……もしかして、ユリアの……?」 姉様とレジーが顔を見合わせた。二人とも赤面気味だ。 「……そういうことだ」 レジーの言葉にテディ兄様の顔がひきつっている。 「アル、ユリアについててくれてありがとう」 「どういたしまして。レジー、姉様をよろしく」 僕は姉様をレジーに預け、レオニードとミシェルを探した。
レオニードたちはすぐにみつかった。 「みんな二人に釘づけだな」 「ユリアさんに憧れてた男は多いからね」 レジーに今日休みを取るよう勧めたのは僕たちだ。『ブルーローズの幸せを守る会』としては、なかなかいい仕事をしたのではないかと思う。 「……みんなショック受けてるぞ。アレン様もふらついてないか?」 姉様がレジーをアレン様に紹介したようだった。 「レジーも度胸あるなあ……」 「音楽馬鹿だからね。音楽以外のところでは結構鈍いかも。あ、名前については敏感だね」 ミシェルの説明に納得する。 やがてダンスの音楽が流れだした。姉様は差し伸べられたレジーの手を取り、優雅に踊り始めた。お似合いの二人に、思わず見惚れてしまった。 「私は諦めないからな」 いつのまにか、アレン様が後ろにいた。 「無駄だと思いますよ? 姉様はアレン様に全く魅力を感じていませんから」 「私は王子だぞ? その口のきき方は無礼だ」 「王子という地位を笠に着ても、姉様の心は手に入りませんよ。逆に嫌われると思ったほうがいいですよ」 僕がそう言うと、アレン様は黙って立ち去ってしまった。 「……アレン様も諦めたのかな?」 「わからないけど、アルの言葉が響いたことは確かじゃないか?」 二人の言う通りならいいのだけれど、まだ油断はできない。
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