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作品名:アルフレッドの憂鬱 作者:光石七

第26回   (九)ブルーローズの危機B

 僕は椅子に縛り付けられた。足だけは自由だが、縄が体に食い込むくらいきつく縛られている。逃げようにも椅子が重くて動かせない。それに従者が見張っている。
 ダグロフは古風な白いドレスとヴェールを姉様に渡した。
「わが家に代々伝わる花嫁衣裳です。私の母もこれを着たんですよ。着こなしが難しいのですが、あなたなら似合うはずだ。これに着替えてください」
「……」
 姉様は唇をかみしめて、メイドと別室に向かった。ダグロフが僕に言った。
「君には本当に感謝するよ。君のおかげでユリア嬢を手に入れることができる」
「――僕はお前なんか認めない。こんな卑怯な奴に、姉様は渡せない」
「ユリア嬢の弟だから大目に見てるのに。君のような子供を一人始末するくらい、簡単なんだよ?」
「姉様を守れるなら、僕は命なんか惜しくない。姉様は僕が守る!」
「君に何ができる?」
 ――悔しいけれど、言い返せない。僕のせいで姉様はここに連れて来られたんだから。
「身の程をわきまえて、大人しくしてるんだね」
「……父様が黙っていませんよ」
「結婚式を挙げて既成事実を作ればこっちのものだ。私の義理の父になるし、君は義理の弟になる」
「そんなこと許さない!」
「この状況で君にできることはない。ユリア嬢は私のものだ」
 ダグロフはそう言い残して、部屋を出ていった。おそらく着替えてくるのだろう。そして姉様と結婚式を挙げるつもりだ。
 外はもう暗い。姉様と僕が帰ってこないのでみんな心配してるだろう。探しているかもしれない。でも、ダグロフの屋敷にいるとは誰も気付かないに違いない。
 あんな奴が姉様を……。なんとかここから逃がしてあげたい。しかし、僕が人質になっている限り姉様は自由に動けない。何かいい手はないだろうか。向こうは僕を子供だと甘く見ている。
 僕は足で思いっきり床を蹴り始めた。
「そんなことをしても無駄ですよ」
 従者が冷たく言い放つ。それでも僕はやめなかった。モールス信号だ。誰か気付いてくれるといいが。
 そのうちダグロフが戻ってきた。やはり正装している。姉様も少し遅れて部屋に入ってきた。白いドレスとヴェールを身に纏い、美しい花嫁姿だ。でも、相手がダグロフでは駄目だ。
「この世のものとは思えない美しさですね」
 ダグロフが満面の笑みで褒め称える。姉様は黙ったままだ。
「怒っている顔も美しい。でも、せっかくの結婚式ですから笑ってください」
「無理やり着せられてるのに、笑えるもんか!」
 僕が姉様の代わりに文句を言ってやった。
「アルフレッド君も見守ってくれることだし、さっそく式を挙げましょう」
 ダグロフが姉様の手を取る。
「汚い手で姉様に触れるな!」
 僕はもう一度叫んだ。
「ザック、アルフレッド君を黙らせろ」
 従者が長めの布を取り出した。僕の口の前でそれを広げる。――猿ぐつわをかませるつもりか。僕は首を振って抵抗した。


 突然、部屋の扉が開いた。
「ユリア! アル!」
 父様だ。
「無事ですか!?」
 母様も来てくれた。
「うちの子たちによくも……!」
 父様がダグロフに飛びかかった。
「レジー、ユリアを頼みます」
 母様はそう言って、僕のほうに来た。母様の後ろにいたレジーが姉様をダグロフから引き離し、肩を抱いた。
「子供を返してください」
 母様が剣を従者に突きつけた。
「私と勝負しますか? 相手になりますよ。それとも銃にしますか?」
 従者が青ざめる。
「わ、私は命令に従っただけで……」
「それでも誘拐と監禁の現行犯ですよ。主人を諌めるのも従者の役目では?」
「し、しかし逆らったら自分の身が……」
「その程度の忠誠ですか。これ以上罪を重くしたくないなら、大人しくしてください」
 母様はそう言うと、僕の縄を切ってくれた。
「怪我はありませんか?」
「はい、母様」
「どの部屋にいるのか、モールス信号のおかげで早くわかりました」
 母様は僕を抱きしめてくれた。
「も、申し訳ありませんでした! 助けてください!」
 背後から叫び声が聞こえた。見ると、ダグロフが父様に殴られていた。
「ユリアに何をした!」
「まだ何もしてません! 本当です!」
 母様が仲裁に入った。
「トーマ、身柄を拘束して警察に引き渡しましょう。殺してしまったら罪を償わせられません」
 母様の言葉に父様が手を止めた。
 警察が来るまで、武器を取り上げてダグロフたちを床に座らせることにした。もう危険はないとわかって緊張が解けたのか、姉様がレジーに抱きついて泣き始めた。
「ユリア……」
 レジーは困惑した様子だったが、こわごわと姉様の頭を撫でた。父様は顔をひきつらせた。
「トーマには私がいるじゃないですか」
 母様が苦笑して父様に寄り添った。
 警察が来ても、まだ姉様はレジーの胸で泣いていた。


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