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作品名:アルフレッドの憂鬱 作者:光石七

第25回   (九)ブルーローズの危機A

 姉様が僕を買い物に誘ってくれた。
「新しい楽譜がほしいの。付き合ってよ」
 僕は喜んでお供することにした。街で目当ての楽譜を手に入れ、姉様はとても満足そうだった。その顔に僕も喜んでしまう。
「さっそく今夜、これでレジーと二重奏しようかしら」
 ――やけにうれしそうだと思ったら、やはりレジー絡みだったらしい。僕は少し落胆してしまった。買い物ついでに、久しぶりに二人で街を散策した。
「最近元気がないみたいだったけど、どうしたの?」
 帰り道、姉様が僕に尋ねた。
「……心配してくれたんですか」
 うれしかった。原因は姉様にあるんだけど。
「シドがうちに来て楽しそうだったのに、ため息ばかりじゃない。気分転換にどうかと思って誘ったのよ」
「ありがとうございます」
 やっぱり姉様は僕のことを思ってくれている。弟としては幸せだと思う。
「……姉様は留学したいんですか?」
「いい先生がいないのならそうするわ。できればこの国で勉強したいけど」
「……レジーと離れたくないから?」
 思わず聞いてしまった。
「……なんでそうなるのよ」
 強がっているようで、心なしか声が震えている。顔も赤い。
「……姉様を見てたらわかります。レジーが好きなんでしょう?」
「……いい友達だとは思うけど」
「告白しないんですか?」
「……レジーはまだ片思いの人を吹っ切れていないみたい。私のことも音楽を志す仲間としか……って、何言わせるのよ」
 軽く小突かれてしまった。――姉様がこんなにかわいらしいなんて。もし、どうしても姉様を誰かに託さなくてはならないとすれば、それは……。
「姉様、レジーに――」
 僕が言いかけた時、僕たちの前に従者を連れた男が現れた。
「ユリア嬢、またお会いできるとは。やはり私たちは運命の糸で結ばれているのですね」
「……どなた?」
 姉様は首をかしげた。
「ダグロフ・ヴァンヴェイユです。爵位は子爵。何度もお手紙を差し上げました」
「ああ、あのしつこい人」
 姉様は心当たりがあるようだ。
「お断りの返事を出したはずですけど」
 恋文があまりに多いので、姉様はあらかじめ断りの手紙を用意している。本当は一人一人に書くべきなのだが、捌き切れないのだ。差出人にそれを送ることで礼を尽くす形を取っていた。
「諦めるにはあなたはあまりに美しすぎる。楽団の演奏会であなたを見かけてから、私の心はあなたでいっぱいです。私の妻となるのは、あなたしかいない」
「勝手に決めないでくださる?」
 姉様はいつもの不機嫌な顔になった。
「あの時運命を感じましたが、今日ここでまたお会いして確信しました。あなたこそ私の運命の人です。その美貌、その気品。私の伴侶にふさわしい」
 ……この人、イカれてるんじゃないだろうか。
「姉様、帰りましょう」
 僕は姉様を促した。
「申し訳ありませんが、そんなつもりはありませんので」
 姉様もはっきり断って歩き出した。
「ザック!」
 ダグロフの声に、従者が動いた。従者が姉様を捕まえようとする。
「放してよ」
「無礼者!」
 僕は従者の腕に噛みついた。従者が姉様から手を放す。
「姉様、逃げてください!」
 僕は叫んだ。自分も従者から離れようとしたが、ダグロフがナイフを取り出すのが見え、一瞬動きが止まった。その隙に、従者にしっかり押さえこまれてしまった。ダグロフはナイフを僕に突きつける。
「ユリア嬢、弟がどうなってもいいのですか?」
「姉様、僕は大丈夫ですから逃げてください!」
 姉様は青ざめた。
「……卑怯よ」
「私はほしいものはどんな手段を使ってでも手に入れる主義でして。今一番ほしいのはあなたです」
 ダグロフは笑っている。
「……弟に手を出さないで」
「あなたが大人しく私の屋敷に来てくれるなら、傷つけたりしませんよ」
「……わかったわ」
「姉様!」
 自分の無力さが悔しい。姉様と僕はダグロフの屋敷に連れて行かれた。


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