20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:アルフレッドの憂鬱 作者:光石七

第23回   (八)作戦DB

 レオニードとミシェルは屋敷に泊まった。本当は祝杯を挙げるはずだったのに、ため息をついてばかりだ。僕の部屋に集まり話し合った。
「ユリア姉様のことだから、男のくせにだらしないって言うと思ったのに……」
「逆効果だったな」
「セッションもこの間より楽しそうじゃなかった?」
「母様のための曲まで披露して、株を上げちゃったな……」
「ユリアさんもうっとりしてたような……」
 レジーは約束通り、母様の曲を仕上げていた。姉様とのセッションの後、みんなの前で演奏した。春の日差しとそよ風を思わせるような、清らかで優しい曲だった。
「セイラさんのイメージです」
「こんな素敵な曲、もったいないです」
 母様は照れていた。父様は微妙な表情だ。曲は素晴らしいが、母様のために作ったというのが引っかかるのだろう。姉様は「作曲もできるんだ」とただ感心していた。
 レジーは夕食まで一緒だった。使用人も席に着いたことに少し驚いたようだったが、家族だからというお祖父様の言葉に感服していた。
「この間はありがとう。ユリアも心のつかえが取れたようだ」
 お祖父様が言うと、レジーは少し照れ臭そうだった。
「音楽に見かけや打算は不要です。才能があるなら、まっすぐ伸ばすべきだと思います」
「レジーのおかげで、もう一度きちんとピアノを勉強する決心がついたわ。本当にありがとう」
 姉様もお礼を言った。
「それはよかった。留学するのか?」
「まだそこまでは決めてないわ。いろいろ調べて、ゆっくり考えるつもり」
「自分で納得がいくようにしたらいいさ」
 ……いい雰囲気だと認めたくなかった。
「レジーは恋人はいないのか?」
 父様がレジーに尋ねた。母様への思いを確かめたかったのだろう。
「ずっと音楽漬けでしたから。バイオリンが恋人のようなものです」
「好きな人は?」
「……いますけど、叶わぬ思いです」
 レジーがはにかみながら答えた。姉様の顔色が変わった。――母様のことだろう。僕はそう思った。父様もそう察したようだ。
「相手に伝えないのか?」
「……その人にはすでに大事な人がいますから。幸せを邪魔する気はありません」
 父様は相好を崩した。
「考え方はいろいろあるが、レジーがそう思うならそれでいいんじゃないか? そのうちいい人が現れるさ。俺とセイラみたいに相思相愛になれる人が」
 母様が少し赤くなった。姉様は複雑そうだ。お祖父様は苦笑していた。
「今のところは音楽だけでいいです。早く楽団にも慣れたいし」
 レジーはそう言った。お祖父様が話題を変えた。
「レジー君は長男なんだろう? 跡を継がなくてもいいのかい?」
「父が音楽家になりたかったのに認められなかったので、夢を俺に託したんです。俺も好きで選んだ道ですし、理解してもらってありがたいと思ってます」
「一昔前はみんな頭が固かったからね。いい時代になったと思うよ」
 そんな話をしながら夕食は終わり、レジーは帰って行った。


「レジー兄様、母君を無理に自分のものにする気はないみたいだね。その点がはっきりしたのはよかったんじゃない?」
「でも、ユリアさんは結構本気っぽいよなあ……。これ以上俺たちに何ができるだろ?」
「……ミシェルもレオニードも何かしたっけ?」
 作戦Dは僕しか働いていない
「僕が兄様の弱点を教えたじゃん」
「俺も作戦がうまくいくよう、毎日祈ってたぞ?」
「実行は僕じゃないか! レオ、祈りなら僕もやってたよ?」
 いつものようなやりとりになっていく。でも、姉様の思いが確実に育っていくのをどうすればいいのか。
 二人のベッドも僕の部屋に用意されたが、僕たちはなかなか寝付けなかった。


 眠れずにいると、突然扉が乱暴に開く音がした。廊下を走る足音がする。
「セイラ、待て!」
 父様の声だ。
「触らないでください、この変態!」
 ……母様?
「二人も子供がいるのに、今更恥ずかしがるなよ」
「嫌なものは嫌です!」
「たまには変わった趣向もいいんじゃないかと……」
「変態には付き合えません! 実家に帰ります!」
「……お前の実家はここだろ」
「レッドフォード家に行きます! 探さないでください!」
「行先言ってるじゃん……。おい、待てって!」
 二人の足音が遠ざかっていく。――夫婦喧嘩なんて珍しい。でも、父様は一体どんな愛し方をしようとしたんだ……。
「……新しい大人のおもちゃでも手に入れたかな」
 レオニードがぼそっと呟いた。
「大人がおもちゃで遊ぶの?」
 ミシェルはきょとんとしている。僕とレオニードは絶句した。
「なんで二人とも黙るの?」
「……ミシェルにはまだ早いかもな」
「そうだね……。そのうちわかるから、時が来るのを待ったらいいよ」
 僕とレオニードは寝たふりをした。ミシェルは不思議そうだ。
 そのうち、足音が戻ってきた。――一人だけ? いや、父様が母様を抱きかかえているんだ。
「……お前が一番大事だから……」
「……私もトーマが大切です」
 結局仲がいいんだ。しかし、友達が泊まってる夜に、あの夫婦は何をしてるんだろう……。
 僕はなんとか眠ろうと寝返りを打った。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 233