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作品名:アルフレッドの憂鬱 作者:光石七

第21回   (八)作戦D
(八)作戦D

 夕食の時に犬を飼いたいと言うと、みんなの手が止まった。
「ちゃんと自分で面倒を見ますか?」
 母様が僕に尋ねた。
「そうよ。ポポの時みたいに私やハンナに押し付けないでよ」
「姉様、僕ももう小さい子供じゃありません」
 ポポというのは昔飼ってたインコの名前だ。僕がねだったんだけど、結局世話は人任せだった。責任を持たないなら生き物を飼う資格は無いと怒られ、それからわが家では何も飼っていない。
「アル、どうして犬がほしいんだい?」
 お祖父様が当然の疑問をぶつけてきた。
「それは……弟分がほしいんです。レオニードから弟の話を聞くと羨ましくて。僕もレオみたいに弟の面倒を見たいし、頼られる存在になりたいなって」
 嘘ではない。
「その気持ちわかるな。俺も末っ子だったから、下の兄弟がほしかった。責任感や自立心を育てるにもいいんじゃないか?」
 父様が賛成してくれた。
「姉様、作曲家のムージアンも愛犬家だそうですよ。犬と戯れながら曲が思い浮かぶことも多いそうです」
「知ってるわ。別に反対してるわけじゃないし、私も犬は好きだから。ただ、アルが言い出したならアルがちゃんと責任持ってよね」
「はい」
 姉様のためなら何でもするつもりだ。
「本当にアルが全部責任を持つなら、明日にでも知り合いのブリーダーに譲ってもらおうか。どんな犬がいいんだい?」
「小型のかわいい犬がいいです。……僕、チビだから大きい犬だと力で負けちゃうし」
「そのうちアルも背が伸びますよ」
「そうそう。俺も子供の頃はチビだったからな。急にぐんと伸びる時期が来るさ」
 両親の優しさはありがたいが、作戦上小さい犬のほうがいい。大型犬を怖がるのは大人でもまだ許される。
「まあ、初めて犬を飼うわけだし、アルの希望通りにしよう」
 お祖父様の助言に感謝した。これで作戦Dの下準備はばっちりだ。
「セイラ、アルを兄さんにするためにもう一人頑張るか?」
 父様の言葉に、母様が顔を赤らめた。


 父様の呼びかけで、再び男だけの会合が開かれた。
「レジーと会った。なかなかいい男だな」
「そうだろう? 少々無骨だけど純粋だし、物事の本質を見抜く目がある」
 父様の仕事の速さに驚いた。
「もう会ったんですか?」
「宮廷の一角で楽団の連中が練習してたから、休憩の時に声をかけた。少ししか話せなかったが、うわべだけの男じゃないことはよくわかった」
「姉様と母様のことは……」
 そこが肝心だ。
「ユリアの才能を高く評価してるな。先生や周りのつまらない態度や言葉で埋もれさせるのはもったいないって、熱く語っていた。異性として、というより、同じ音楽を愛する者として放っておけない感じだ。
 セイラのことは『かわいらしくて聖母みたいに優しくて、素敵な奥様ですね』と照れながら褒めていたが……。あいつに憧れる奴はいくらでもいるからな。若干気に食わないが、今のところ、そう危険はないと判断した」
「妥当な評価じゃないかな。後は成り行き次第だね。問題が起きそうなら介入も必要だけど」
 お祖父様も父様も悠長すぎないだろうか。何かあってからでは遅い。
「ユリアも昨日セイラと話したようです。セイラから聞きました。やっぱりきちんとピアノを勉強したいそうです。どういう形にするかはもう少し考えたい、と言っていますが」
「そうだね。留学してもいいし、本当にユリアのことを考えてくれる先生がいれば任せてもいいと思う」
 姉様を傷つけたあの先生だけは許せない。ちゃんとした先生だったら、姉様はもっとのびのびと才能を磨いていたはずだ。
「……姉様はピアニストになりたいんでしょうか?」
「できればそうなんじゃないか? はっきりとは聞いていないが、ピアノには関わっていたいだろう」
 僕も姉様の夢は応援したい。でも、姉様と離れるのは嫌だ。
「このことも温かく見守ってあげよう。必要な時には手を差し伸べてあげればいい」
「そうですね」
 姉様のピアノのことは姉様次第だ。僕はどこまでも姉様についていく。
 姉様の恋に関しては、お祖父様も父様もあまりあてにできないと感じた。やはり『ブルーローズを守る会』の出番のようだ。作戦Dを決行する日は近い。


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