翌日、僕はミシェルの屋敷に行った。レオニードも訓練が休みで集まってくれた。さっそく僕は姉様とレジーのことを伝えた。 「そんな! ユリアさんが……」 「楽屋での様子がおかしかったから、もしかしたらと思ったけど……。本当にレジー兄様を?」 二人とも衝撃を受けたようだ。 「ああ、俺のブルーローズが……」 「誰のものにもならないことだけが救いだったのに……」 「僕だってショックだよ。お祖父様には邪魔しないよう釘を刺されるし。しかもレジー、母様が好きってどういうことだよ?」 「確かにあの母君はかわいいよな。ちょっと年の離れた姉でも通りそうだし。ファンも多いんだろ?」 「……レオ。不安にさせないで」 自慢の母だけど、今はその魅力が恨めしい。 「アルも大変だね」 ミシェルが同情してくれた。 「で、アル。これからどうするんだ?」 「当然認めるわけにはいかないよ。姉様の思いが届いて、相思相愛なんてことになったら……。レジーの思いが母様に届くのも嫌だけど」 「アルの両親ってすっごく仲いいよね。誰かが入り込む余地なんてないんじゃない?」 「その点は僕も大丈夫だと思ってる。レジーのほうはとりあえず父様に任せる。近いうちにレジーと会うって言ってたから、母様のことはそれで諦めるんじゃないかな。問題は姉様のほうなんだけど……」 「盗み聞きがばれて大変だったんだろ? 下手に手出ししたら、今度こそユリアさんに許してもらえないんじゃ……」 「そうなったら、僕もユリアさんと話せなくなるじゃん!」 「アルはともかく、俺らまでとばっちりはごめんだよな」 「……僕らの友情ってもろいね」 自分さえよければいいのか、君たちは。 「グレイヴィル伯爵の言うように、見守るしかないかもね」 「でも、ユリアさんがレジーへの思いを深めていくのも見たくない。さらにレジーが母君からユリアさんに乗り換えたら……」 「それって最悪だよね。でも、姉様に心を寄せられること自体が気に食わない」 「レジー兄様もそれなりにハンサムでいい人だけれど、ユリアさんの相手としてはどうかなあ?」 「従兄でもやっぱそこは譲れないか、ミシェル?」 「当然。遠くの従兄より近くの友の姉様さ」 ミシェルもレオニードも小さい頃遊んでもらっていたし、初恋の人なので、ユリア姉様が大切なのだ。今でも憧れを募らせている。 「それで、僕考えたんだけど……」 「アル、何かいい手があるの?」 「考えがあるなら教えろよ」 きっと二人とも力を貸してくれるはずだ。 「姉様がレジーに幻滅したらいいんじゃない?」 「……なるほど。ユリアさんがレジーを嫌うように仕向けるわけか」 「ミシェル、レジーの弱点とか知らない?」 「うーん、僕も頻繁に会ってたわけじゃないから……。大抵バイオリンの練習をしてるし、遊んでくれる時もみっともないとこは見たことないなあ……」 「お前の情報が重要なんだよ」 「何でもいい。姉様の前で失態を演じるようなこと、何かない?」 レオニードの言うように、ミシェルの情報が頼みの綱だ。 「決闘を剣じゃなくピアノにしたのは、腕に自信がないからとか?」 「違うよ。怪我をしたら、バイオリンが弾けなくなるからさ。護身程度には使えるはずだよ」 レジーの生粋の音楽馬鹿ぶりに感心してしまった。 「ちょっと待ってて。お母様に聞いてみる」 ミシェルは部屋を出ていき、すぐに戻ってきた。 「あったよ、レジー兄様の弱点」 「何?」 「犬が怖いんだって。昔噛まれてから、どんなに小さい大人しい犬でも近づけないんだって」 これは有力な情報だ。大の男が小さい犬に怯えるなんて情けないし、マイナスポイントになること請け合いだ。 「本当か? どうやって聞いたんだ?」 「『レジー兄様がカッコイイって話になってるけど、本当に兄様は何もかも完璧なの?』って聞いたら、すんなり教えてくれた」 「さすがミシェル」 その聞き方なら怪しまれないだろう。 こうして僕たちは『ブルーローズを守る会』を発足させた。作戦Dはとっておきの切り札だ。DはDogの頭文字から取った。 きっと姉様の恋も冷めるはず。僕は上機嫌になった。
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