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作品名:アルフレッドの憂鬱 作者:光石七

第20回   (七)その恋、認めませんG

 翌日、僕はミシェルの屋敷に行った。レオニードも訓練が休みで集まってくれた。さっそく僕は姉様とレジーのことを伝えた。
「そんな! ユリアさんが……」
「楽屋での様子がおかしかったから、もしかしたらと思ったけど……。本当にレジー兄様を?」
 二人とも衝撃を受けたようだ。
「ああ、俺のブルーローズが……」
「誰のものにもならないことだけが救いだったのに……」
「僕だってショックだよ。お祖父様には邪魔しないよう釘を刺されるし。しかもレジー、母様が好きってどういうことだよ?」
「確かにあの母君はかわいいよな。ちょっと年の離れた姉でも通りそうだし。ファンも多いんだろ?」
「……レオ。不安にさせないで」
 自慢の母だけど、今はその魅力が恨めしい。
「アルも大変だね」
 ミシェルが同情してくれた。
「で、アル。これからどうするんだ?」
「当然認めるわけにはいかないよ。姉様の思いが届いて、相思相愛なんてことになったら……。レジーの思いが母様に届くのも嫌だけど」
「アルの両親ってすっごく仲いいよね。誰かが入り込む余地なんてないんじゃない?」
「その点は僕も大丈夫だと思ってる。レジーのほうはとりあえず父様に任せる。近いうちにレジーと会うって言ってたから、母様のことはそれで諦めるんじゃないかな。問題は姉様のほうなんだけど……」
「盗み聞きがばれて大変だったんだろ? 下手に手出ししたら、今度こそユリアさんに許してもらえないんじゃ……」
「そうなったら、僕もユリアさんと話せなくなるじゃん!」
「アルはともかく、俺らまでとばっちりはごめんだよな」
「……僕らの友情ってもろいね」
 自分さえよければいいのか、君たちは。
「グレイヴィル伯爵の言うように、見守るしかないかもね」
「でも、ユリアさんがレジーへの思いを深めていくのも見たくない。さらにレジーが母君からユリアさんに乗り換えたら……」
「それって最悪だよね。でも、姉様に心を寄せられること自体が気に食わない」
「レジー兄様もそれなりにハンサムでいい人だけれど、ユリアさんの相手としてはどうかなあ?」
「従兄でもやっぱそこは譲れないか、ミシェル?」
「当然。遠くの従兄より近くの友の姉様さ」
 ミシェルもレオニードも小さい頃遊んでもらっていたし、初恋の人なので、ユリア姉様が大切なのだ。今でも憧れを募らせている。
「それで、僕考えたんだけど……」
「アル、何かいい手があるの?」
「考えがあるなら教えろよ」
 きっと二人とも力を貸してくれるはずだ。
「姉様がレジーに幻滅したらいいんじゃない?」
「……なるほど。ユリアさんがレジーを嫌うように仕向けるわけか」
「ミシェル、レジーの弱点とか知らない?」
「うーん、僕も頻繁に会ってたわけじゃないから……。大抵バイオリンの練習をしてるし、遊んでくれる時もみっともないとこは見たことないなあ……」
「お前の情報が重要なんだよ」
「何でもいい。姉様の前で失態を演じるようなこと、何かない?」
 レオニードの言うように、ミシェルの情報が頼みの綱だ。
「決闘を剣じゃなくピアノにしたのは、腕に自信がないからとか?」
「違うよ。怪我をしたら、バイオリンが弾けなくなるからさ。護身程度には使えるはずだよ」
 レジーの生粋の音楽馬鹿ぶりに感心してしまった。
「ちょっと待ってて。お母様に聞いてみる」
 ミシェルは部屋を出ていき、すぐに戻ってきた。
「あったよ、レジー兄様の弱点」
「何?」
「犬が怖いんだって。昔噛まれてから、どんなに小さい大人しい犬でも近づけないんだって」
 これは有力な情報だ。大の男が小さい犬に怯えるなんて情けないし、マイナスポイントになること請け合いだ。
「本当か? どうやって聞いたんだ?」
「『レジー兄様がカッコイイって話になってるけど、本当に兄様は何もかも完璧なの?』って聞いたら、すんなり教えてくれた」
「さすがミシェル」
 その聞き方なら怪しまれないだろう。
 こうして僕たちは『ブルーローズを守る会』を発足させた。作戦Dはとっておきの切り札だ。DはDogの頭文字から取った。
 きっと姉様の恋も冷めるはず。僕は上機嫌になった。


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