夕食の後、僕はお祖父様と父様に残ってもらった。姉様とレジーのことを話すためだ。 姉様がレジーに恋をしたと話すと、父様は暗い顔になった。 「……とうとうこの時が来たか」 「君の気持ちはわかるよ。私もセイラの思いを知った時は複雑だったからね」 お祖父様が父様を慰める。 「『お父様のお嫁さんになる』って言ってたのに……」 「……何歳の時の話ですか、父様?」 「言ってもらえただけいいじゃないか。私はセイラに言われたことはないよ」 「義父上はずっとセイラに好かれているじゃないですか。ユリアは俺を避けたりしてるんですよ」 父親にとって、娘は特別な存在らしい。父様は頭を抱えた。 「ああ、レジーと二人きりにするんじゃなかった」 「だから僕が反対したじゃないですか」 「でも、ユリアの気持ちは決闘の日から芽生えていたんだろう? 恋の話はさておくとしても、今日レジー君と話ができたことは、ユリアにとって良かったんじゃないかな。ずっと抱えていた心のわだかまりが解けたんだから」 ――そうなのだ。いつも近くにいたのに、僕は姉様の悩みや苦しみを気付いてあげられなかった。僕が邪魔をしてしまったけれど、レジーの言葉が姉様の心を軽くしたのは事実だ。 「形は違うけど、昔のセイラと似てるね。自分を認めてくれる場所、認めてくれる人を求めてる。ユリアは小さい頃から外見ばかりをもてはやされてきた分、ちゃんと内面を見てほしいとずっと思ってたんだろうね」 「姉様はどんな姿でも姉様なのに……」 「家族以外でそう言ってくれる人が今までいなかったんだ。だから異性にも冷たく当たってきたんだな」 「確かにユリアに近づいてくる奴は、一目惚れとか地位や財産目当てがほとんどだな」 「そんな奴らに姉様は渡せません!」 姉様は人形でも道具でもない。 「でも、レジー君は違った。惹かれるのは当然かもしれないね」 「……認めたくない」 「父様、僕も同じです」 「ユリアの気持ちを尊重してあげないと。先のことはわからないけれど、温かく見守ってあげよう」 お祖父様の言うことはもっともなんだけど、気持ちが納得しない。 「私もセイラとトーマ君のことを認めるのに時間がかかったよ。だけど、セイラの成長と幸せのためだったし、最終的にはトーマ君の人柄を信頼せざるを得なかった」 「散々いびられましたね……」 「ユリア姉様の成長と幸せのために見守れ、というんですか?」 「そうだよ」 「……」 父様も僕も黙ってしまった。頭ではわかるけど……。 「ユリアだけでなくレジー君の気持ちも関わってくるから、二人がこれからどうなるかは読めないね。レジー君のこともまだよく知らないし」 「それなんです! レジーには……好きな人がいるんです」 もう一つの頭痛の種をちゃんと伝えなくては。 「アルは相手が誰か知ってるのか?」 「はい。……母様です」 「……は?」 「……セイラ?」 お祖父様も父様も面食らっている。 「レジーは母様を素敵な女性だと言って、はにかんでいたんです。きれいで優しくてかわいいって。わざわざ僕に母様の名前を聞いてきたんですよ。今日も母様を見て赤くなってたし、母様のために曲を作ってプレゼントさせてほしいって母様に話してました」 「……セイラは何て言ってた?」 「……『なんだか恥ずかしいです』『もったいないです』って、少女のように恥じらってました」 「……だろうな」 父様も母様のことをよくわかっている。 「レジーは熟女趣味なのか……? いや、セイラが若々しいのか? かわいすぎるのか?」 「トーマ君。悩んでるのか惚気てるのか、わからないよ」 「あいつを憎からず思ってる奴は結構いるけど……。俺もレジーと会ったほうがよさそうだな」 「父様、よろしくお願いします」 父様と会えば、レジーも冷静になるかもしれない。 「恋と呼べる代物かはちょっと微妙な気もするな。まあ、セイラがトーマ君以外の男に特別な感情を持つはずはないから、心配ないと思うけど」 僕も父様も母様を信頼しているけれど、用心に越したことはないだろう。 「とりあえず、レジー君と親睦を深めながら様子を見るしかないんじゃないかな」 お祖父様が結論を出した。 「お祖父様、でも……」 「アルは余計なことをしないように。ユリアに嫌われるよ?」 そこを突かれると弱い。でも、もし最悪のシナリオになってしまったら……。 「トーマ君も、感情に任せてレジー君を刺したりしないように」 「……しませんよ。義父上こそ、昔からセイラのことになると目の色が変わるじゃないですか」 「今まで君を殺してないだろう?」 「やっぱり殺意があるんですか!?」 二人とも本当に母様を大切にしている。ちょっと物騒なやりとりだけど、互いに信頼して心を許しあっていればこそだ。 結局お祖父様の意見によって、この男だけの会合は幕を閉じた。
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