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作品名:アルフレッドの憂鬱 作者:光石七

第18回   (七)その恋、認めませんE

 姉様は口をきいてくれなかった。夕食の席でも、僕のほうを見ようとしない。
「あ、あの姉様……。今夜は姉様の好きな物ばかりですね」
 会話のきっかけを作りたくて話しかけても、姉様は黙ったままだ。
「……本当にごめんなさい。何でもするから……」
 ひたすら謝るけれど、姉様は僕を無視する。
「ユリア、アルを許してあげてください。ユリアのことを心配し過ぎただけですよ」
 母様が姉様にとりなそうとしてくれる。
「ユリア様、私どもからもお願いします。アルフレッド様をお止めしなかった私どもの責任です」
 ギャッツとエリックも僕をかばってくれた。
「アルに無理やり命令されたんでしょ? ギャッツたちは悪くないわ」
「アルも反省してる。こんなに謝ってるし、許してやったらどうだ?」
 父様も姉様に言ってくれた。でも、姉様の表情は硬いままだ。
「ユリアはアルにどうしてほしいんだい?」
 お祖父様が姉様に尋ねた。
「私の視界に入る所にいてほしくないわ」
 ――そこまで姉様に嫌われたとは。僕は悲しくなった。
「じゃあ、アルをわが家から追放するか」
 ――お祖父様、それはあんまりです。
「そうしてくれる?」
 ――姉様、そんなに僕が嫌いですか?
「わかった。――アルフレッド、今すぐ屋敷を出なさい」
「え……? 本当に……?」
「すぐに出て行くんだ」
「……わかりました」
 家長の命令は絶対だ。僕は涙をこらえて立ち上がった。
「お父様、やめてください!」
「旦那様!」
 母様と使用人たちがお祖父様に命令を取り消させようとした。けれどもお祖父様は僕を促す。僕は扉に向かって歩き出した。
「――待って!」
 姉様が叫んだ。
「お祖父様、アルは跡継ぎでしょ? いなくなったら困るじゃない」
「ユリアはいなくなってほしいんだろう?」
「それは……」
「アル、行きなさい。荷物は最低限で」
「……はい」
 お祖父様に再度促され、僕は扉を開けようとした。
「待って、行かないで! アルがいなくなったら、私……」
「やっとユリアの本音が出たね。――アル、もういいよ」
 振り返ると、お祖父様が笑っていた。
「お芝居だったんですか……」
 母様がほっとした顔になった。みんなも安堵したようだ。
「アル、脅かして悪かったね。ユリアが素直じゃないから、少し揺さぶってみたんだ」
「お祖父様……」
「ひどいわ。こんな手で騙すなんて」
 すねた言い方だが、姉様の照れ隠しなのは誰の目にも明らかだった。
「すまなかったね。でもユリア、相手が過ちを認めて謝ったのなら、ちゃんと受け止めてあげないと」
「……はい」
「わかったら、アルと仲直りしなさい」
 姉様は一旦目を閉じて、僕を見た。
「アル……」
「僕が悪かったんです。姉様、ごめんなさい」
「……もういいわよ。これからはあんな真似しないでね」
 姉様に許してもらい、ようやく僕は緊張が解けた。みんなの笑顔が温かい。父様がお祖父様に敬愛のまなざしを送った。
「さすがは義父上ですね」
「トーマ君は私の意図がわかっていたようだね」
「義父上がかわいい孫を追い出すはずはありませんから」
「じゃあ、この手はもう使えないな。次からはトーマ君が考えてくれ」
「俺ですか?」
「君ならできるさ」
「義父上にはかないませんよ」
 お祖父様と父様は互いを褒め合い、それを使用人たちが見守っている。母様も柔らかい笑みを浮かべている。姉様は少しきまり悪そうだけど。
 いつもの食卓の光景に戻ったようだ。僕はやっと夕食を心から味わうことができた。


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