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作品名:アルフレッドの憂鬱 作者:光石七

第16回   (七)その恋、認めません�C

 ミシェルは今日まで旅行で不在だった。明日会おうと思っていたのに、夕食で思いがけない会話がなされた。
「ユリア、明日の午後はどの部屋を使いますか?」
「他にお客様がいないのなら、この間と同じ部屋がいいわ。ピアノを弾くかもしれないし」
「またレジー君とセッションするのかい?」
「時間があればね」
「夜までいてくれないかな。今度は俺も聴きたい」
 僕以外の家族は明日レジーが来ることを知っていた。いつのまにか姉様がレジーと会う約束を取り付けていた。
「姉様、ミシェルがいないのにどうやってレジーと連絡を?」
「直接手紙を出したもの」
 ――うかつだった。その手があった。
「……この間言ってた相談ですか?」
「そうよ」
「まさか……二人っきりで?」
「そうしたいけど」
「絶対駄目です!」
 僕は叫んだが、姉様は僕の顔をちらっと見ただけだった。
「真剣な大切な話なの。邪魔はしないで」
「姉様が男と二人きりなんて、許せません!」
「……アル、いい加減に姉離れしろ」
 父様が低い声で僕に言った。
「父様、いいんですか? 姉様がレジーに何かされたら…」
「話を聞く限り、そんな男じゃないと思う。もし変な真似をしたら、俺が殺す」
「トーマ君、あの頃の私の気持ちがわかるだろう?」
「そうですね、しみじみと」
「お祖父様も父様も、昔を懐かしんでる場合じゃないですよ!」
「アル、落ち着いてください」
 母様が僕をなだめようとした。
「そうだ、母様が同席……」
 言いかけて気付いた。母様が一緒でも、レジーの気持ちが本物なら別な意味で危険だ。
「お祖父様、姉様についていてくれませんか?」
 頼めるのはこの人しかいない。
「ユリアが相談相手にレジー君を選んだんだ。他の人間がいたら話しづらいだろう」
「私もそう思います」
 お祖父様も母様も物わかりがよすぎる。
「アル、本当に邪魔しないでね。弟でも許さないから」
 ついに姉様に言われてしまった。
 何か作戦を考えなくてはいけない。姉様を守るのは僕だ。二人きりになんかさせてたまるか。
 僕は乱暴にナイフを動かし、肉の塊をフォークで口に放り込んだ。


 名案が浮かばないまま、翌日の午後を迎えた。レジーが訪ねてきた。
「レジー様、ようこそおいでくださいました」
 執事のクロードがレジーを中へ案内する。
「レジー、よく来てくれましたね」
 出迎えた母様を見て、レジーは赤くなった。
「忙しいのではありませんか?」
「いいえ、大丈夫です。定期演奏会も終わったし、今は余裕があるので」
「ユリアのために、ありがとうございます」
「俺でお役に立てれば」
 ――やっぱり怪しい。母様に対するレジーの態度は明らかに違う。
「レジー、姉様と話が終わったら僕の部屋に来ない?」
 平静を装ってちょっと誘ってみた。
「時間が余れば行く。叔母様に呼ばれてるんだ。客のためにバイオリンを弾いてほしいって」
「ユリアと話してて大丈夫ですか?」
「叔母の家に行くのは夜だし、こっちが先約だったんで。……あの……」
 レジーがうつむいた。それでも目は母様を見ている。
「何でしょうか?」
「伯爵夫人のお名前、セイラっていうんですね」
 レジーが顔を上げた。
「アルから聞いたのですか?」
「はい。……今度セイラさんに曲をプレゼントしたいんですけど、いいですか? この間お会いしてから、セイラさんのイメージが旋律になってるんです。タイトルも『セイラ』にしようかと思って」
 ――決定的だ……。テディ兄様も姉様のために自作の歌を歌ったことがある。姉様の評価は散々だったけれど。音楽で気持ちを告白するのも一つの手らしい。それに、身内でもないのに母様を名前で呼ぶなんて。
「なんだか恥ずかしいですね。どんな曲なんでしょう?」
 ――母様、もっと警戒してください。恥じらっている場合じゃないと思うけど。
「かわいらしい、優しい感じの曲ですよ。まだ未完成なので、できたら一番に披露します」
「そんな、もったいないです」
 ――だから、そういう少女みたいな仕草はやめてほしい。ますますかわいいと思われてしまう。父様の前だけにしてください。
「レジー様、お部屋にご案内いたします」
 クロードがレジーを連れて行ってしまった。


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