20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:Kの遊び場 作者:光石七

第6回   (六)本物のK
(六)本物のK


 いつものようにインターネットを立ち上げた時、ケイはニュースの見出しに驚いた。
「Q県でNPO代表死亡、『かまいたち』か?」
 ケイはまだ仕事の依頼を受けていない。記事をクリックして詳細を読む。被害者の名前と年齢、死亡日時と場所の他には、首の傷から出血して死んでいるのが発見された、ということしかわからなかった。
(どういうことだ?)
 模倣犯ということになるのだろうが、今地上にいる風使いはケイだけのはずだ。
 いづみとえるが公園に誘ってくれた。ブランコに乗るえるの背中を押してやりながら、ケイは心が晴れていくのを感じた。砂場にすべり台、ジャングルジム。えるはあちこちケイを連れ歩く。つきあうのに一苦労だが、心地よい疲れだった。
 帰りにおんぶをせがまれ、ケイはえるを背中に乗せた。子供の体温が気持ちいい。いつのまにか、えるは眠っていた。
「愛川さん、忙しくなるんですかね?」
「どうして?」
 ケイの問いかけに、いづみは不思議そうな顔をした。
「さっき、ネットのニュースで読んだんですよ。『かまいたち』が出たって」
「どこで?」
「Q県です」
「そう……。どこにどんな犯人がいるか、わからないものね」
 いづみは眉をひそめた。
 いづみとえるを愛川家に送り届け、ケイは自宅でテレビをつけた。ニュースをみたが、やはりQ県の『かまいたち事件』の詳細はまだわからないらしい。
「気にしても仕方ないよな……」
 そうだ、と言うように、風吹が一声鳴いた。


 三日後にQ県の『かまいたち』が逮捕された。被害者に恨みを持っていた知人が自首したのだ。目撃者がいなかっただけで、ナイフで首を切りつけたらしい。他の件には関与していない、と供述しているということだった。当然だ。だが、久しぶりに今までの『かまいたち事件』の特集がワイドショーで組まれた。
 もともとワイドショーは好きではないが、『かまいたち』本人であるケイはテレビをつけるのが億劫になった。ニュースはネットでもチェックできる。数日経てば騒ぎも収まるはずだ。
 そんな時、仕事の依頼が入った。報道に刺激されたのだろうか。おそるおそる依頼者とターゲットの情報を読む。――よりによって、県内だった。
 ケイは依頼者と連絡をとるか迷った。別に放置してもいいのだ。まだ貯金は十分あるし、依頼者はケイのことを知らない。ちょっと過激な情報をネット上でやりとりしただけだ。――だが、今までこれで生活してきた。他の生き方なんてわからない。
 結論が出ないまま、一週間が過ぎていった。


 夜、玄関のチャイムが鳴った。インターホンの画面を見ると、えるがしょんぼりと立っている。ケイは玄関を開けてやった。
「どうした? 叱られたのか?」
 えるは首を横に振った。
「パパが困ってるの。パソコンの前で動かない」
 何かトラブルが発生したのだろうか。そういえば、新手のコンピュータウィルスのニュースも最近あった。
「俺が行ってみようか」
 ケイはえると愛川家に向かった。
 愛川はパソコンの前に座ったまま固まっていた。
「愛川さん、ウィルスですか?」
 ケイが声をかけた。
「……ケイ君。……なんだい、これ……」
 パソコンの画面に表示されていたのは、ケイの仕事のためのブラウザだった。
「掲示板に書き込もうとしたら……こんなのが……」
 ――キーワードを入力したのか。依頼者の間で、口コミだけで伝わっているはずだった。一族以外の人間が思いつくはずのない言葉。
「……何て入力したんですか?」
 ケイは尋ねた。
「――『沈む風神』」
 ダムの底に沈んだ祠から決めたキーワードだった。
「どうしてその言葉を……」
「……高校の同級生が、本を出したんだ。少しでも宣伝してくれって頼まれて。そのタイトルさ」
「……その同級生の名前は?」
「――風守新」
 恐ろしい偶然だった。ケイは黙って愛川家を後にした。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 37